45.違和感
俺には、親友と呼べるほどの友人がいる。
相手がそう思っているかは分からないが、俺はそう思っている。
名前は、姑山 黎
学年首席で、すごく優しいやつ。怖がられる俺にすら、優しく声をかけてくれたやつ。
本当に、俺の友達だなんて勿体ないくらいのやつだった。
初めて見かけたのは、入学式の新入生代表挨拶の時。
遠目から見たら女みたいな見た目で、細っこい男だなと思った。
たまたま同じクラスで、席が近かったことが、話すようになったきっかけだった。
姑山と澤田だから、五十音順で並べられると前と後ろになる。
目つきが悪いせいで遠巻きにされる俺に、黎は「よろしく」って笑いながら言ってくれた。それだけで俺がどんなに嬉しかったか、誰にも分かるはずがない。
なんの運命か分からないが、3年間同じクラス。2年の始めに、森と清水と仲良くなって、終わりの頃に本田と仲良くなった。
それから5人でよく遊ぶようになったんだ。
黎に関わるようになってから、こいつがちょっと不思議なやつだってことを知った。
何もいない場所をじっと見つめていたり、変な行動をしたりする。
「どうかしたのか?」と聞いても、困ったような顔で笑って「大丈夫」とか「なんでもない」としか言わない。
どう考えてもなんでもないわけないのに……とか思うけど、話さないのには理由があるのかもしれない。だから、俺たち4人は黎が話してくれるまで待つことにした。
そして、困ってることがあったら、さりげなく助けることにした。
3年の最後の夏、黎は見るからに変わった。
本来の性格とかは全く変わらないけど、雰囲気が春とは違った。
まず、よく笑うようになった。前までは困ったように笑ってるだけだったのに、今じゃ本当に楽しそうに笑ってる。その変化が不思議だったが嬉しかった。
なにより、「楽しい」と言ってくれた。今までが楽しくなかったと言われたわけじゃないけど、楽しんでくれてることが本当に嬉しかった。
次に、多分だが、施設以外の場所に居場所ができたんだと思う。
本人は、誤魔化しているようだが、その誤魔化し方が雑すぎる。夏祭りに浴衣で来たのはいいけど、知り合いから借りたって……
3年も一緒にいるんだから、そんな知り合いが居ないことはすぐに分かる。それに、お小遣いも貰っているらしい。変なやつじゃないならいいけど、少しくらい話してくれてもいい気がする。あわよくば紹介してくれ。
「黎がお世話になっております」って、挨拶するから。
それから、「ありがとうございます」って言いたい。
黎を幸せにしてくれて、笑えるようにしてくれてありがとうって伝えたい。
新学期、いつものように休み時間に駄弁っていると、本田がスマホを取りだし「面白いもの見つけた」と言って、見せてくれた。
それは『本当にあったかもしれない話』というアカウント。
前にも見たが、不思議な話がたくさんあった。
その中でも、最新の投稿に全員が目を奪われた。
『夏祭りの帰れぬ霊』
隣にいる黎が、息を呑む音が聞こえた。
見ると、血の気が引いていて真っ白な顔色をしていた。
「黎、大丈夫か?」
「……大丈夫」
どう考えても大丈夫じゃない声で答える黎に、余計に心配になる。
森たちも声をかけるが、黎は「大丈夫」としか言ってくれない。
踏み込めない俺たちも俺たちだが、何も言ってくれない黎も黎だ。
(助けての一言で、助けてやるのに)
なんて、心の中で呟くが聞こえるわけもない。
何もできない自分がもどかしかった。
もっと力があれば……
もっと知識があれば……
黎が見ている世界を俺も見ることができたら、何か変わったのかもしれない。
「黎」
「? なに?」
放課後、分かれ道で黎を呼び止めた。
不思議そうな顔をして振り返るこいつに、何を言えばいいか迷った。
何を言えば、こいつの支えになれるだろうか。
「……言いたくねぇなら、いいんだけどさ」
「うん」
「何かあったら、頼れよ」
「……ありがとう」
結局、ありきたりな言葉になってしまった。
黎は俺の言葉に迷ったように目を泳がせてから、またあの困った笑みを浮かべて答えた。
(あぁ……間違えた)
何となく、そう思った。
今かける言葉は、きっと、これじゃなかった。
頼れるなら、きっと頼ってる。無理だから、頼れない。頼らない。
だからこんな言葉じゃ、こいつを困らせるだけだった……




