42.夏の終わり
今日は、夏休み最終日。
中学最後の夏休みの経験は、とても濃かった。
神に課題を教えてもらったり、人魚にあったり、友達の家に遊びに行ったり、幽世という場所でのお祭りに参加したり、帰ってきてから花火大会に行って不思議な体験をした。
半分以上話せない内容だが、黎にとっては忘れられない経験だった。
そして、課題が終わらないと泣きついてきた友人たちのために、いつもの図書館の学習室で最後の追い込みをしていた。
「首席! ここ、なに?」
「もうやだぁ……」
「黎、これ合ってるか?」
「姑山くん、もう終わるから手伝う」
「ありがとう、すごく助かる。森、泣き言言ってる暇あったら手を動かして。
澤田、合ってるかはあとで見るから全部終わらせて。
本田、それさっき教えた」
早々に課題を終わらせた黎は、四方から呼ばれるたびに、クルクルと動き回っていた。
清水は、そろそろ自分の課題が終わるらしく、手を貸してくれるらしい。とても助かる。
森は英語のワークに躓き、嘆いている。
本田は数学の応用問題で頭を抱えていた。
澤田も同じく、応用問題のプリントを前に手が止まっている。
「だから、早く終わらせろって言ったじゃん」
「ごめんなさぁい」
「姑山、俺がちゃんとやってないと思ったのか? 分からないところを残してただけだ」
「本田の分からないところって、全部だよね?」
「応用プリントを忘れてたんだよ、悪い」
本田は何を堂々と言ってるのだろうか? 潔いにも程がある。
「ダイ、ジョーブ?」
オロオロと、不安そうな心配そうな顔で言う姑獲鳥に小さく頷いてから、教えに戻る。
数時間後……清水の手を借り、何とか全員が課題を終わらせることができた。途中で課題が終わった澤田が手伝ってくれたことが救いだった。
ちなみに自由研究については、知らない。
多分終わってることを信じたい。
「ありがとぉ! 助かったよぉ!」
「よし! 今年は居残りさせられない!」
「黎も清水も、ありがとな」
「俺は全然、姑山くんのおかげだよ」
「それは否定しないけど、せめて清水と澤田は終わらせておいて欲しかった」
そうすればもう少し時間を短縮出来たのに……
机にダランと体を預けながら口を尖らせる。
四人にかわりばんこに頭を撫でられるが、それを避ける気力もない。
さりげなく姑獲鳥も混ざって撫でているが、気にしない。
(教えるって、難しい……)
あんなに分かりやすく教えてくれるウカを、改めて尊敬した。
やっぱり、勉学の神も兼任しているのか? と、疑問が湧くほどだった。
「そういえばお前ら、進路決めたか?」
澤田の言葉に、黎はピクリと反応する。
「休み明けに進路の最終確認を行うとか言ってたよな」
「僕は変更無しで、決めてた高校行くかなぁ」
「俺もバスケの推薦あるからそこかな」
「俺は私立。公立は無理だ」
「潔い諦めだな。俺は公立と私立どっちもだな。テストの点数悪くても、内申点で何とかはなるけど」
全員が、どこの高校に行くかの話をしている。
黎は、まだ決めかねていた。
行かない……という選択肢もある。だが、今の時代では、高校くらいは卒業しておいた方がいい。中卒では、色々と難しいこともある気がする。
森と清水は、高校でも同じ部活をするようで、強豪校に行くらしい。
本田は、専門の方に進みたいらしく、高校から学べるところに行くらしい。それ以前に、公立はハードルが高く、私立しか選択肢に無いようだ。
澤田は頭が悪い訳では無いし、生徒会長を務めているほどの真面目人間だ。見た目はともかく……
だから、内申点も良いだろう。公立でも、レベル次第では普通に入学できると思う。
「黎は?」
「姑山の頭ならどこにでも入れるだろ」
「本田、簡単に言わないで。そもそも、高校行くかは悩んでる」
「え、そぉなの?」
「なんで?理由とかある?」
驚いたような声が上がった。
少し言いにくそうに、モゴモゴとしてから小さく「入学金……」というと、全員が微妙な顔をした。
中学までは義務教育だから何とかなったが、高校はそうではない。
施設で暮らす黎は、入学金の問題があった。
「? でも、国からの援助無かったか?」
「ある……」
「あるなら、気にしなくてよくなぁい?」
「そうなんだけど……施設の職員と仲良くないから……」
そういうと、また微妙な顔をされた。
黎としても、この話はしたくない。だが、高校進学となると考えなくてはならない。
施設には18歳まで居ることが出来る。
ただ、本人の希望や事情によっては、それより早く施設を出ることも可能らしい。その場合は、生活する場所や後見人などが必要になる。
高校に行くなら、寮があるところが良かった。
無いところに行くとなると、卒業まで施設にいることになる。
黎としては、一刻も早くあそこから出たいのだ。
だから、行かずに働くという選択肢も黎にはあった。
そんな色々なことを考えると……
「むり……」
「姑山が溶けた」
「黎、大丈夫か?」
「姑山くんならどこの高校でも行けそうだけど、そういう訳にも行かないのか……」
「うぅ〜ん、一旦この話終わりにしよっかぁ」
難しい話なのだ。
明日からまた学校ということもあり、不安がぐるぐるとうずを巻く。
せめて、姑獲鳥が妖怪ではなく人間だったら……なんて考えるほどには、黎は悩んでいたのだ。




