41.夏の想い
還してくれた人の子を、木の影からそっと見つめる。
気づかれてはいないだろう。ずっと傍にいたことも、ずっと見ていたことも。
5人の人の子は、今の時代には珍しいほど、純粋で優しい魂を持っていた。
二人ほど、『そういうもの』に好かれやすい体質なのだろう。一人はあのおチビちゃんがどうにかするだろうけど、もう一人が怪しい。
だが、家族や先祖の守護が強いため、そこまで気にしなくても良いと思った。
「それにしても、なんて生きづらそうなのかしら?」
思ったよりも視えている……否、『視えすぎている』
そういう専門の道に進むならいざ知らず、普通の平穏な暮らしを望むならば、あの目は障害になり得てしまう。
それをどこまで分かっているのだろうか?
少なくとも、あの神は気づいているのだろう。
気づいていて、放っておいているのかもしれない。
何か策があるのかもしれない。
だがそれは、彼女の預かり知らぬところだ。
夏は永遠ではない。じきに夏が終わる。
熱い青春が終わり、秋となる。
「あの子は来年まで、生きていられるのかしら?」
一歩間違えたら、簡単にその命は散るだろう。
それ程、危ないところに立っている。
今、彼女にできることは、何事もなく生きられるように願うこと。ただそれだけ。
祭りの終わりは、なぜこんなに寂しげなのだろうか。
どんなことにも終わりは来る。それはどんな終わりなのだろうか。
季節の半分が終わる。残り半分。
「貴方たちが平和で、幸せに暮らせることを心から願うわ」
神々の間には、不穏な空気が流れていた。
その空気は、ゆらゆらと揺れている。
掴むことのできない何かが、蠢いているようだった。
ただ願う……心から……
優しく暖かい雨が降っている。
その下で、サンダルに付いているコインをシャラシャラと鳴らしながら踊っている。
雨がまるで宝石のように輝く。
全てを知っていたわけではない。迷子のあの少女については、本当に誤算だった。
完全なる善意で教えたあの場所の近くに、迷える魂がいたとは思わなかったのだ。
しかも、人の子全員が見えていた。
だから、善意で消してあげたのだ。覚えている必要のない記憶を。
ただ、黎の記憶だけは消さなかった。消してしまうには、関わりすぎたのだ。
だが、それがどんなに恐ろしいことかは理解していなかった。
彼女は女神だ。生まれてから今までずっと……
だから、人との価値観も違う。
記憶を消してはいけないなんて、知らなかったのだ。
海のように優しく広い心を持つ女神、筒姫。
彼女の行動は全て、本当にただの善意。
それだけは、確かだった。




