40.祭りの終わり
2回目の、花火大会終了のアナウンスが聞こえてくるまで、黎たちはその場に立ち尽くしていた。
「ねぇ、いつまでくっついてる気?暑い」
夏に、男五人がくっついているのだ。すごく暑い。
しかも体格がいいから、押しつぶされてしまっている。
「もうちょい」
「まだくっついていようよぉ」
「大丈夫だから」
「暑いだけで死にはしない」
「いや、全員すごい汗だよ?」
澤田と森はいいとして、清水の「大丈夫」とは何に対してだろう?
本田に至っては、そういうことではない。
花火が終わるまでくっついていたのだ。数十分はこのままだったわけで、いい加減本当に暑い。そして少し恥ずかしいから、さっさとどいてほしいと言うのが、黎の本音だった。
「いやぁ、綺麗だったな」
「アニメキャラとかもあったな」
「ニコちゃんマークもあったねぇ」
「凄くいい場所教えてもらったね。次会った時はちゃんとお礼しないと」
帰路につきながら、口々に感想を言い合う。
今度は澤田の家で手持ち花火をやろうという話にもなった。
4人の会話を聞きながら、ふと、せんかの話をしておかなきゃと思った。
「そうだ、迷子の子。ちゃんと帰ったよ」
詳しいことは話せない。
だから、ただ帰ったとだけ伝えておくことにした。
だが……
「? 迷子なんていたのか?」
「え?」
「もしかして、はぐれちゃった後かなぁ?姑山くん、大変だったねぇ」
「迷子見つけてはぐれたのか。次からは声掛けてから離れてくれよ」
「心配しちゃうからね。それにしても優しいね」
何かがおかしい……
「え、待って」
黎は立ち止まり、考える。
四人も足を止め、黎を不思議そうに見つめた。
どうして、せんかのことを覚えていないのだろう。
迷子を見つけたのは、森だった。
声をかけたのは森と清水。
どうにも出来なくて、澤田が援護に行った。
せんかが駆け出したから、全員で追いかけた。
そして、黎が捕まえた…
そこでふと気づく。
何故、最後尾辺りを走っていた黎が、せんかに追いついたのだろうか?
せんかの後ろを走ってた、一番足が速い清水よりも、なぜ黎が先に追いつけたのだろうか。
そういえば、あんな人混みの中で、なぜ普通に走れたのだろうか……
そこまで考えて、背中に何か冷たいものが走った気がした。
無意識に、鈴に手が伸びる。
これ以上、考えてはいけないと、脳が警告を出しているようだった。
「おい、大丈夫か?」
「顔色悪いぞ?」
「だ、大丈夫…」
蚊の鳴くような声だったと思う。
それでも、心配させたくなくて、無理やり笑顔を作って、誤魔化す。
四人はこれ以上詮索してこなかった。今は、それがありがたかった。
四人と別れ、ウカの屋敷に向かう。
足取りは重かった。早く帰りたいのに、ノロノロと、亀のような速度でしか歩けない。
今まで、怖いものや怖いことはあった。ただ、視えることで不便なこともあったけど、直接危害を加えてくるようなことはなかった。
だけど今回はどうだろう?
確かに、せんかと四人は会ったのだ。
会って会話をした。
それなのに、その事実をなかったことにされてしまった。
「……足止めって、そういうこと?」
あの親切な女神の言葉を思い出す。
彼女は確かに『足止めくらいは手伝ってあげる』と言った。
もし、その足止めが記憶を消すことだったら…?
せんかを探さなくてよくなった彼らは、何をしていただろうか?
『人混みが』と言っていたから、屋台の方に居たのだろう。
すべて、黎の想像でしか無かった。
だけど……
『人と妖では生きる世界が違う』
ウカの言葉が、頭の中でぐるぐると回った。




