39.散る花
「黎!」
「姑山くん!」
せんかを送った後、黎は一人花火を見ていた。
色とりどりに咲く花は、なんと美しいことだろう。
火薬の匂いが鼻をよぎる。
パラパラと燃え尽きる音が、やけに寂しげだった。
後ろから声がかかり、ゆっくりと振り返る。
そこには、澤田たちがいた。
たくさん歩き回ったのだろう。森の浴衣が少しだけはだけていた。
「みんな…」
「良かったぁ、やっと会え…」
「もう、人混み…」
森と清水の言葉が、不自然に止まる。何かあったのかと首を傾げると、澤田が大股で近づいてくる。
「黎!何があった!?」
「おい!姑山、何あった!なんで泣いてる?!」
泣いてる…?
不思議そうにしている黎に、澤田はサコッシュからハンドタオルを取り出し、黎の顔を拭く。
黎はぎゅっと目を瞑り、されるがまま。
「なんか嫌なことあったぁ?」
「俺たちがいない間に、怖いことに巻き込まれたりとか…」
みんなが心配してくれている。
それがなんだかむず痒くて、居心地が悪い。
でも、何も言わないと余計に心配させると思って、ゆっくりと首を振る。
「ううん、何もないよ」
「本当か?」
「うん…なんか、花火が綺麗で」
「綺麗で泣いてた?」
「姑山、お前可愛いな?」
「感傷に浸っちゃったんだぁ」
黎の言葉に安心したのか、澤田は深く息を吐いた。
本田は至極真面目な顔で、黎を見つめる。
清水と森は、笑いながら「良かった」と言ってくれた。
「それに、なんか一人が寂しかったかも…?」
言ったあとで後悔した。
なんて恥ずかしいことを言ったのだろうか。
訂正しようと口を開いたが、四方から抱きつかれて身動きが取れなくなってしまった。
もう、もちゃもちゃのぎゅーぎゅーだ。
この時期にこれは暑い。逃れようとするが、離してくれない。しかも全員何も言わないから、少し怖い。
一際大きな花火が上がった。
黎を含め、全員の目が空へ移る。
さっきまで一人で見ていた花火を、今は五人で見ている。
それが嬉しくて、自然と顔がにやけてしまう。
「ねぇ、来年も一緒に見れる?」
「見れるだろ」
「てか、見ようよ。ちゃんと集まろ」
「どうせ県内の高校だし、すぐ会えるだろ」
「県外でも、ちゃんと会いに来るねぇ」
何気なく呟いた言葉に、みんなが即答してくれる。
たぶん、去年の自分ならこんなことは言わなかっただろう。
それどころか、花火を見るなんてことも、友達と遊びに来るなんてこともしなかったと思う。
そろそろ花火が終わる。
とても名残惜しい。
まだ一緒に見ていたい。
まだ夏が終わらないでほしい……
そんなことを思いながら、今、散りゆく花火を見つめていた。




