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35.迷子の子供

微ホラー注意

「ねぇ君、迷子?」


「お母さんかお父さんはどこぉ?」


 人当たりの良い清水と森が率先して声をかける。

 澤田は初見だと怖がられるし、黎と本田はそもそも子供が苦手である。

 そのため、澤田、黎、本田の3人は、清水と森の2人から1歩離れたところで様子を見ていた。


「……」


「いきなり声掛けられちゃ、怖いよね」


「そっかぁ。怖がらせてごめんねぇ?酷いこととかしないから安心して〜?」


 優しく声をかけ続ける2人を少女はチラリと見るが、それだけ。

 清水は肩をすくませ、困ったように黎たちを見る。

 それを見た黎たちも、顔を見合わせた。


「どうする?」


「どうするもこうするも無いだろ」


「でも、完全に警戒されてるね」


 深く息を吐いてから、澤田が少女に近寄る。

 目線を合わせるためにしゃがむのは良いのだが、傍から見ると絵面がやばい。どう見ても、子供に詰め寄るヤンキーのような構図になっているのだ。


「これ、傍から見たらやばくね?」


「うん、すごく通報されそう」


 小声で話すが聞こえてるようで、ジロリと睨まれた。


「迷子か?一緒に本部に行って、探してもらおう?」


 いつもよりも優しく声をかける澤田。少女はそろりと顔を上げるが、驚いたのかすぐさま顔を下げてしまった。


「びっくりしたんだろうねぇ」


「怖かったか…」


「お前ら、そろそろ俺泣くぞ?」


 笑い声を聞きながら、黎は少女を観察する。

 ミサキと同い年か、それよりも上くらいの少女。着ているものは、子供用の浴衣らしく、フリルが多めにあしらわれていた。

 生きている人…では無いのは見ればわかる。

 裾から見える足が、通常なら有り得ない方向に折れているのだ。浴衣にも赤黒いシミがいくつか見えている。

 顔を上げた時に見えたが、顔にもいくつか傷があった。

 多分これは…


「交通事故…?」


 その時に出来た怪我なのだろうか?

 4人は特に何も言わずに話しかけているのを見るに、この少女の怪我は、黎にしか見えていないらしい。

 どうしたら良いのだろうか。こんな経験は初めてである。

 いつもなら、黎にしか見えていない存在だ。

 それなのに、今日は違う。少女の姿は、澤田たち4人にも見えていた。


『人と妖では住む世界が違う』


 ウカの言葉が頭の中に響く。

 関わってはいけないのだろう。放っておくのが正しい判断なのだろう。

 ましてや、澤田たち4人は何も知らない普通の人間だ。

 何も知らず幸せに暮らすことの出来る人間。

 

 悩みながら、黎は何となく腕に着けている鈴を指で触った。

 音がならない鈴に触れていると、少女がパッと顔を上げた。

 

 少女の目は黎を見ていた。

 

 目と目が合う。


 …恋に落ちるわけではない。


「ん?黎が気になんの?」


「姑山くん、おいでぇ?」


 少し迷ってから、1歩近づく。

 それと同時に少女は立ち上がり、走り出してしまった。


「え?」


 全員驚き、思考が停止した。黎は別の意味で驚いた。


 (あ、あの足で走れるの?)


 どう考えても立つこと自体難しい足の折れ曲がり具合。それなのに、立つだけではなく走り出した。


「おい、流石に1人はまずいだろ!」


「あ、ちょっと待って!」


 いち早く回復した澤田が、全員に声をかける。

 清水が手を伸ばすが、伸ばした先にはもう少女はいない。

 足が早い清水が、すぐに少女を追いかける。

 その後ろを、残った4人も見失わないように追いかけた。


「マジ走んの?」


「はぐれないようにしろよ!」


「それフラグだよ!」


「え〜と、はぐれたらどぉするのぉ?」


「教えてもらった花火見るところに集合!」


 黎たちは、人混みの間をすり抜けるように走る少女を追いかける。最大限被害がないようにしながら。

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