34.親切心
フラフラと屋台を巡り歩いた森の右手には、フランクときゅうり、左手にはかき氷を持ち、腕には焼きそばやたこ焼き、焼き鳥が入った袋がぶら下げてある。
「いや、買いすぎだろ…」
「そんなに食える…だろうけど、買いすぎだろ」
「そんなことないよぉ?」
そう言いながらフランクにかぶりつく。
とても幸せな顔で食べる姿に、全員が苦笑いを浮かべた。
「でも、どこかに座ろう」
「そうだね、俺たちも食べたいし」
各々、食べたいものを買ったため、全員が食べ物を持っている状態だった。
このまま歩き続けても、焼きそばなどは食べづらいと思ったため、どこか座れるところを探すことになった。
「さすが花火大会、人しかいない」
「これ、座れるところ探すの無理そうじゃない?」
「誰か穴場とか知らねぇの?」
「わはんはい」
「食べてから話して」
河川敷に来たはいいが、既に席取りはされており、5人で座れそうな場所がない。
どうしようか迷っている時、後ろから声をかけられた。
「君たちどうしたの?」
全員勢いよく振り向く。澤田が4人を守るように前に出た。
声をかけたその人をよく見ると、多分人ではないということが黎にはわかった。
雰囲気が違うのだ。
褐色肌に、青い短髪の女性。目はまるで海を閉じ込めたような美しい色をしていた。
白いキャミソールに短パンという、中学生には少し刺激の強い服を着ていて、思わず息を飲んでしまった。
「あれ?キミっておチビちゃんのとこの子?」
「おチビちゃん…?」
問いかけられた黎は首を傾げる。
全員が黎を不安そうに見てるのが分かる。
「白いお狐さんの事」
バチンっとウインクをするその人の言葉に合点がいき、頷いた。
この人が言っているのは、ミサキのことなのだろう。ということは、ミサキかウカの関係者。どう考えても人間では無いことに警戒が強まる。
それに、どことなく春に出会った女神と雰囲気が似ていた。
そう思うと余計に不信感が募る。
「…何の用ですか?」
「そんなに警戒しないでよ」
あははと笑いながら1歩詰め寄るその人。
澤田も1歩前に出ると、何故か睨み合うような構図になってしまった。
周りから見れば、とてもおかしな光景なのだが、気にする素振りをする人もいなければ、こちらに目をやるような人たちもいない。
まるでここだけ切り離されたかのような空気感だった。
「良かったら穴場を教えてあげよっか?」
「なんで、ですか?」
「うーん、強いて言うならあの子への嫌がらせ」
ハートマークが飛び交うような甘い言葉に眉間に皺が寄る。
『あの子』とは、誰だろう?
ミサキのことは、『おチビちゃん』と呼んでいたから、違う気がする。
「どうする?」
「なんか怪しいよぉ?」
「姑山の知り合いっぽいけど…」
澤田以外の3人がコソコソと話す言葉に首を振る。
「知り合いの知り合いだから、面識はない」
黎の言葉を聞いて、またコソコソと話し出す。
絶対聞こえてるが、気にする素振りはないので好きにさせておくことにする。
「断った時、承諾した時のデメリットはあるのでしょうか?」
「どちらもないわ。ただの親切心よ」
堂々とした澤田の問いかけにニコリと笑いながら返すのを見て、本当にただの親切心と、誰に向けてかは分からないが、少しの嫌がらせの気持ちしかないのだと思った。
間違っていなければ、この人は女神である。
神と名がつく者は、嘘をつかない。親切心という言葉も嘘にはならないだろう。
みんなに大丈夫だと思うと伝えてから、その人に向き直ってお願いをする。
「じゃあ、教えてください」
「いいわよ!スマホ貸してくれない?場所を教えるから」
女神がスマホって…と思ったが、口にも顔にも出さず心の中に留めておく。
今は神も最先端なのか…とか、思ったわけでは決してない。
本田のスマホに場所を送ってもらって、あの女神(仮)とは別れた。
なんだか、どっと疲れが来たようだった。
「なんか、凄い人だった」
「綺麗だけど怖かったねぇ」
「黎、お前どんな人と知り合ったんだよ…」
「大丈夫な人なの?」
「えっと、その知り合いは大丈夫な人…?だから安心して」
なんとも言えない表情で見られて、居心地が悪くなり目を逸らす。
逸らした先は、真っ黒な闇だった。
驚き目を閉じる。
そして、恐る恐る目を開けると、先程までの闇はなく、祭りの風景が広がっていた。
「ねぇ、あの子迷子かなぁ?」
森の言葉の先を見ると、1人の少女が膝を抱えて座っていた。
誰もその子を気にする素振りを見せない。
その光景に、さっきの自分たちが重なった。
「声掛けるか?」
「掛けるしか無くないか?」
「花火までは時間あるもんね」
引き止めようか迷ったが、ここで引き止めれば変な状況になることは間違いない。
だって、迷子を見過ごすということになるのだから。
不安な気持ちを抑え、少女に声をかけに行った。




