33.合流
「そういえば、夏祭りって来たことあんの?」
3人を待つ間、澤田と黎は境内で開かれている屋台を見て回った。
食べ物の屋台が4軒と、くじ引きやヨーヨーすくいの店が1軒ずつ。6軒しか屋台はなかったが、それでも胸が躍った。
3人が揃えば、もっと屋台が並ぶ会場へ向かう。そのことを思うだけで、期待が膨らむ。
キョロキョロと屋台や人影を見ていると、澤田がふと思いついたように質問してくる。
「うーん、この前行ったのが初めてだったかも?」
「マジか…てか、どこの祭りに行ってきたんだ?」
口を滑らせたことに気づき、ピシリと固まった。
なんと説明しようか頭をひねりながら、「ちょっと、遠いところ…?」と絞り出すように言う。
そんな黎の様子を訝しげな目で見ながらも深くは聞いてこなかった。
「去年も一昨年も行かなかったもんな」
「そうだね。俺は誘われても断ってたし」
「確かに。なんで今年は来ようと思った?」
たこ焼きを頬張りながら、澤田は黎を見ないまま尋ねた。
別に黎を責めるような口調ではなかったが、心臓がヒヤリとした。
「…………」
何も言えずに手元にある唐揚げを見ていると、澤田が言葉を続けた。
「いや、来てくれんのは嬉しいんだけどさ。本当に。でも、無理してねーかなって」
「え?」
「なんて言えばいいかな。この頃?てか、夏休み前あたりからなんか、お前変わったじゃん?いや、変わったって言うか、よく笑うようになった…ような気がする…」
「…?俺、結構笑ってると思うけど…」
「そうじゃなくて!あー、うん、笑ってるけど、なんかさ、心から笑えてないって言うか、我慢してるって言うか…」
黎は首をかしげた。
「そんなことはない」と思った。だが、言葉を選びながら話す澤田を見てると、そうなのかもしれないな。と思わずにはいられなかった。
「とにかく、お前がちゃんと楽しそうでよかったよ」
そう言って笑った澤田の顔は、暗くてよく見えなかった。
「あー!居たー!」
「おぉ〜い!お待たせぇ〜!」
「待たせてごめんね」
黎が何かを言う前に、3人が到着した。
「お前ら無事に辿り着いたな」
「マジで、人混み」
「あ〜!もう食べてる〜!」
「そりゃ、30分遅れだからね。食べてるでしょ」
「それもそっかぁ!姑山くん、1個ちょ〜だい」
あ〜と口を開ける森に、ポイッと唐揚げを入れると、本当に美味しそうに食べた。
その様子に思わず吹き出すと、4人が不思議そうな顔をして黎を見る。
「ふぇ?なんはあっは?」
「ゴックンしてから話して」
森は言われた通りにもぐもぐと口を動かした。
「で?」
「うん?」
「姑山が吹き出すなんて珍しいから、何あったかなって」
「大したことじゃないけど、うん。楽しいなって思って」
その時になって、澤田の言葉が腑に落ちた。
楽しいのだ。
とても。
友達と遊べるのが、すごく楽しい。
だが、澤田は手を口に当て驚いたように黎を見て、森と本田は目をキラキラに輝かせて、清水は少し目を潤ませていた。こんな反応されるとは思わなかったのだ。
「も、もう行こ!ほら行こ!!」
「あ、待って待って!」
「ごめんってぇ!」
「黎、おま、早いな?!」
「マジか、え、姑山もう1回言え!」
くるりと背を向けて歩き出した黎を追うように、4人も駆け出した。
「森の服、可愛いいね」
森は体格が良いため、普通の服ではサイズがあまりない。そのため、今回は浴衣を着ていた。
黒い浴衣の裾には白い猫が描かれていて、とても可愛らしい。
「でしょぉ?おばあちゃんがくれたんだぁ」
「良いな、浴衣」
「俺も浴衣にすればよかった。それか姑山と本田みたいな甚平」
清水は白のTシャツに黒のスラックスでシンプルな格好だった。
本田は、青色の柳柄の甚平。
「和服か洋服かで分かれたな」
「分かれたね」
「みんなよく似合ってる」
そう言いながら屋台を回る。人も多くなってきたため、2人、1人、2人で列になって歩いていた。背の高い森と清水が後ろ、その前に澤田、1番前を本田と黎が歩く。
時々振り返って話す本田と黎に、「前を向け」と注意する澤田。
その姿に少しだけお父さんみを感じながら、あっちへこっちへと食べ物に釣られていく森に振り回されるのだった。




