32.普通の屋台
あの後、ウカの屋敷に姑獲鳥と一緒に帰り、花火大会について話した。
あれから黎は、ウカの屋敷に入り浸っていた。本当なら、施設に帰らなければならないが、何となく帰りたくなくてここに居る。きちんと施設には友人の家に泊まると言っているので何も言われない。それどころか、黎が居ない方が良いのだろう。許可を貰う際喜んで送り出された。そんな反応に苦笑いしか出なかった。
「花火大会ですか?わー!とっても良いですね」
夏野菜カレーを食べながら、ミサキは楽しそうにニコニコしている。
それにつられて、黎も自然と笑顔になる。
ミサキが作った夏野菜カレーは、中辛。ゴロゴロと入ったズッキーニやナス、パプリカ、とうもろこし。その上には、かぼちゃをペーストにして丸めた『かぼちゃ団子』が、ちょこんと乗っている。
それをカレーに絡めて食べると、野菜の甘みとスパイスの香りが口いっぱいに広がる。
「いつもの面々で行くのか?」
「はい、森が屋台を楽しみにしてて」
「花より団子か」
「それ、俺も言いました」
ミサキと姑獲鳥はクスクスと笑いながら、黎とウカの会話を聞いている。
ウカが同じことを思ったことが面白くて、黎も笑ってしまう。
「ミサキ、小遣いを渡してやれ」
「はーい!」
「え、いや、大丈夫です!」
ウカの言葉に慌てて首を振るが、聞いてくれる気は無いようで、それならミサキに助けを求めようと視線を向けるが、笑顔で「お祭りで使うならば、小銭の方が良いですよね?」なんて言われてしまう。
完全に子供扱いだが、嫌な気持ちは無く、むしろ嬉しかった。だが……
「ミサキちゃん、本当に少しでいいから!そんなに入れないで!」
止めないと可愛いがま口のお財布がパンパンになってしまうため、黎は慌ててミサキを止めた。
「よ!早いな黎」
「澤田も早いね」
集合時間10分前に着いた黎は、既に居た澤田に声をかける。姑獲鳥は来たそうだったが、気を利かせてか付いてこなかった。別に付いてきても良かったのにと思ったのは、秘密だ。
集合した場所は花火大会が行われる場所の近くの神社。ここにも屋台が少しだけ出ているため、人が疎らにいた。
「黎、珍しいな?そんな服持ってたか?」
「え?あ〜、うん、知り合いに借りたの」
今日の黎の格好は、黒の生地に白い金魚が裾や袖に描かれている甚平。
靴は黒のスポーツサンダルを履いて、歩きやすいようにした。
左手首にはミサキから貰った『音の鳴らない鈴』が着けられている。
「ふーん?似合ってんじゃん」
一瞬不審そうな目をした澤田だが、すぐにニカッと笑いグッドサインをしてくれた。
それにありがとうと言いながら、澤田にも似合ってると言う。
澤田の服は、黒の開襟シャツに白のTシャツ、ネイビー色の膝丈ハーフパンツ、白のスポーツサンダル、黒のサコッシュだった。
髪も少し弄ってるようで、とても似合っていた。
「ありがとな。てか、アイツら遅くね?」
「たしかに?どうしよっか?」
「待って、今連絡してみるわ」
黎はスマホを持ってないので、澤田にお願いする。
その間、少しだけキョロキョロと目線を彷徨わせる。
小さい子供のような影が走っていたり、光の玉がふわりと漂っているのが見える。
無意識に左手首の鈴へ指を添えていることに、黎自身は気づいていなかった。
屋台に目を移すと、焼きそばやオムそば、たこ焼きに唐揚げなどと、普通の屋台が並んでいた。
「…普通だ」
「何が?」
思わず呟いた言葉に澤田が反応する。
「あ、いや、屋台が普通だなって」
「?そりゃそうだろ?」
不思議そうな顔をする澤田。何とか誤魔化すが、いまいち納得して無さそうだった。
「んー、じゃあ屋台見てまわるか」
「え?でも3人は?」
「なんか、人混みにハマったらしい。もうちょいかかるらしいから、屋台見てても怒られねーよ」
「ほら行こうぜ」と言いながら、黎の手を引く澤田に、何となくミサキを思い出した。
手の大きさも、温かさも違うのに…
変なの、と思いながら澤田の顔を見ると、ずっと黎を見てたようで、優しく笑いながら首をかしげた。
黎は、「なんでもない」と言いながら、普通の現世の屋台に心を踊らせた。




