29.無事
鈴の音を辿り走る。
ずっと聞こえていた鈴の音が聞こえなくなり、ミサキは焦っていた。
黎に何かあったのだろうか?と…
実際、黎の身には何かが起きていたが、それを知る由はない。
祭りをやっている大通りから少しそれた脇道。この道にも提灯が吊るされている。
ゆらゆら揺れる様は、美しいような怖いような…
一際大きく揺れる提灯は、赤い光を放って居た。
「ウカ様、ご縁を繋いで頂けますか?」
「?お前が迎えに行くのか?」
不思議そうな声で問いかけられる。
どう考えてもウカが迎えに行く方が早くて確実だが、先程(無礼な)神に啖呵を切ってしまったので、それを嘘にする訳にはいない。
それに…
「黎くんに、『必ず助けます』と言いましたので」
ニコリと笑いながら、お面を着け直す。ただし、顔にではなく、頭に斜めがけするように。
「ワタシ、モ、いく」
「姑獲鳥さんは、こちらにいてください。黎くんが帰りやすいように、こちらで待っていてください」
そういうと、姑獲鳥は少し迷った末頷いてくれた。
「どれで縁を繋ぐつもりだ?」
「一応、黎くんが持ってる鈴と対になる鈴を持ってきたんです。使わないに越したことはなかったんですけどね…」
困ったように笑いながら、いそいそと手首につける。
その様子にウカは1つ頷くと、言ノ葉を紡ぐ。
優しい光がミサキの周りを回っている。その光が段々と、門の形になって行った。
ウカの屋敷の門と同じ形のものだ。
「帰り方は分かるな?」
「はい、ウカ様。行ってまいります。ちゃんと連れて帰りますね」
「2人で無事に戻ってこい」
「キヲ、ツケテ、ネ」
ウカの「2人で」という言葉に少し驚いたが、気にせず優しく微笑んでから、門を開く。
1歩踏み出し、床を踏みしめる。後ろで門が閉まった音がした。
その空間は真っ暗だった。
頭上で提灯が怪しく光っている。
ミサキは、鈴を鳴らす。
リンッ…
ゆっくり、届くように鳴らす。
リンッ…
ミサキの手に何か触れた気がした。
それは水のように指の間をすり抜けていく。
優しく包むように握り、小さく呟く。
「必ず助けます」
リンッ…
音を探る。
少しの音も聞き逃さないように。
…声が聞こえた気がした。
何かを必死に叫んでいる。胸が締め付けられるような必死な声。
一際大きく、鈴の音が聞こえた……
「見つけた!」
ミサキは、指先に狐火を小さく出す。
狐火の操作は苦手だ。それでも、そんなことを言っている場合ではない。
真っ直ぐ、鈴の音が聞こえた方へ狐火を飛ばし、空間に穴を開ける。
1歩間違えれば、この空間全てを火の海にしてしまうので、内心ハラハラである。
開けた穴から、黎の顔が見える。
黎に手を伸ばし、名前を呼ぶ。
「……黎!」
声に反応した黎は、こちらを振り向き目を見開く。
そして、ミサキの方へ手を伸ばしてくれた。
ドサッ、と音を立て、二人そろって地面に倒れ込んだ。
勢い余って、黎を押し倒してしまった。
慌てて飛び起き、怪我の有無を尋ねた。
「わー!黎くん、ご無事ですか!?お怪我は……」
ありませんか?
その声が届く前に、ミサキは抱きしめられた。
小さいミサキは、黎の腕の中にすっぽりと収まった。
優しく背を撫でる。
「手を離してごめんなさい。怖い思いをさせて、ごめんなさい。頑張りましたね。もう、大丈夫ですよ」
いい子、いい子
と、優しく撫でる。
泣いたことがほとんど無いのだろう。下手くそな泣き方で、少し苦しそうな声が聞こえる。
それに気付かないふりをしながら、抱きしめる。
……どうして?
…なんで?
「なんできたの?」
黎以外の声に、バッと振り向く。
ミサキを抱きしめる腕に力がこもるのを感じた。
こんな状況なのに、不謹慎だと思いながらもミサキは少し嬉しかった。だから、大丈夫だと言うように背を撫でる。
腕を緩めてもらい、黎を背に庇うように立つ。
…なんで?
……なんで?
「なんで、おまえが…!」
「とても失礼な方ですね。口の利き方がなってませんよ」
もうすこしだったのに!
あとすこしだったのに!
なんでじゃまをする!
かみのけんぞくのくせに!
じんがいのくせに!
「ただのきつねのくせに!」
「黙りなさい」
狐火がミサキと黎を囲む。
「わ…」
黎の驚く声が聞こえ、思わず笑ってしまう。
「大丈夫ですよ」
黎が頷いたのを見て、また前を見据える。
「この子は貴方たちが連れて行って良い子ではありません。
即刻立ち去りなさい。出来ないのであれば……」
今すぐ、消し去っても構いませんよ。
結果だけを言えば、逃げ帰って行った。
大きな溜息をつきたかったが、黎が居るため飲み込んだ。
「ミサキちゃん…」
「黎くん、帰りましょう?ウカ様も姑獲鳥さんも待ってますよ」
そういうと、黎は目を見開き涙が溢れて来ていた。
しょうがないというふうに笑いながら、ハンカチで涙を拭ってあげる。
「黎くん?」
「…うん、帰る。ミサキちゃんと、帰る…!」
「はい、帰りましょう」
狐火が一本の光となって、帰り道を照らす。ウカの元へ帰るための。
黎と手を繋ぐ。次は絶対離さないように、強く握りしめながら、帰路についた。




