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27.迷子

微ホラー注意

「ミサキちゃん…?宇迦之御魂神様?姑獲鳥さん?」


 名前を呼んで辺りを見渡すが、誰も返事をしてくれない。先程までの賑やかさは見る影もなくなっていた。

 

 上を見上げると、提灯がゆらゆらと揺れている。

 どれも同じオレンジ色の光を放っているが、ひとつだけ、赤色に光っているのに気づいた。その提灯は不自然に揺れている。


「なに、あれ?」


 分からないものを考えても仕方がない。気にはなったが、まずはミサキたちと合流することを考えることにした。


 だが、ここは幽世。現世とは違う世界だ。無闇矢鱈に動くことはできなかった。


「どうしよう…」


 小さく漏れた独り言。

 その時、手首に着けられた鈴の存在を思い出した。


『もし何かあったら、この鈴を鳴らしてください。必ず助けます』


 ミサキの言葉が、脳内で再生される。

 

 本当に鳴るのか。鳴らした時は何の音もしなかったこともあり、少し戸惑ってしまった。

 意を決して鳴らそうとした時、後ろからクイッと引っ張られたような気がして振り向く。


「…?子供?」


 白い着物を来て、お面をつけている。

 そのお面は、まるでのっぺらぼうのように真っさらだった。


「…きて」


「え?」


「…きて」


 そう言いながら、その子供は黎の手を掴む。


 ヒヤリと冷たい手に驚き離そうとするが、離れない。

 どう考えても黎の力の方が強いはずなのに、逃がさないと言わんばかりの力で握られている。


「…きて…きて…こっちにきて」


 何度も繰り返し言いながら、黎を引っ張っていく。

 足で踏ん張っても、ズルズルと引きづられてしまう。


 真っ暗な道に入った。

 至る所から声が聞こえる。


 …こっち


 …はやく


 …おいで


 …おいで


 足元からは、子供の笑い声や動物の鳴き声が聞こえてくる。

 時折見かける人影は、子供だったり大人だったり、老人だったり、動物や虫だったり。

 様々だった。


「ねぇ、どこに行くの?」


「…いいところ」


「いいところ?俺、帰りたいから行けないよ…!」


 ありったけの力で引き止める。

 またズルズルと引きづられると思ったが、今回はあっさり止まってくれて、思わずたたらを踏んだ。


「どこに?」


「え?」


「どこにかえるの?」


「かえるばしょなんて、ないくせに」


 舌っ足らずな幼い声で、まるで黎を嘲笑うように言う。

 その言葉を聞いた瞬間、頭から冷水を浴びせられたように固まった。


 ……だれもまってないのに


 ……だれももとめてないのに


 ……だれからも、あいされてないのに


「うるさい!!」


 自分でも驚くほど、大きな声が出た。

 まるで他人事のように、頭の片隅には冷静な自分がいる。


 …だれもみてくれない


 …だれもしんじてくれない


 …ずっとひとり


 …いつもひとり


「…ねぇ、いつまでひとりでいるの?」


「そんなこと……」


 俺が知りたいよ…


 小さな声は、誰にも届かず、その場に落ちていく。

 泣きそうだった。

 泣いてしまいたかった。


 ……だいじょーぶ


 …いっしょにいるよ


 …だから、いこ?


 ……こっちに、おいで


 悪魔みたいな囁きだ。

 脳の一部をグズグズに溶かすような甘い言葉。

 

 また引っ張られる。また引きずるように連れていかれる。

 でも、さっきと違って抵抗する気にもなれなかった。

 言われた言葉は、全部事実だ。

 バレないように。

 悟られないように。

 隠して隠して、ずっと、心の奥底にしまってあったものだ。


 ……おいで


 …だいじょーぶ


 …いっしょにいるよ


 頭が上手く働かない。

 モヤがかかったように、何も考えられなくなっていた。

 もういいか。

 黎が諦め、自ら1歩踏み出そうとした時…


 リンッ…


 森の匂いがした。

 優しくて、暖かい空気に包まれた。

 まるで、ウカの屋敷に居る時のような…


 リンッ…


 鈴がまた鳴る。

 黎には、聞こえていない。

 

 手に柔らかな感触が触れた気がした。

 今繋がれているヒンヤリとした手ではない。暖かい優しい手の感触。

 優しく、黎を気遣いながら引いてくれる、あの手の感触…


『必ず助けます』


 リンッ…



「…一緒には行かない、行けない!」


 グッと足に力を入れて立ち止まる。

 強い力で引かれて、腕が痛い。

 それでも、そんなこと気にしている余裕なんて無かった。

 勢いよく腕を振り、手を離す。


 …どうして?


 …なんで?


 …ねぇ、なんで?


 …なんで、なんで?


 今まで影しか見えなかった子たちまで姿を現し、黎に詰め寄る。

 なんで、なんで、と、まるで壊れたラジオのように繰り返していた。


「優しい人を知ってる。大切にしてくれる人を知ってる。俺を大事にしてくれてる人を知ってる」


 独りだと思ってた。

 ずっと、これからも。

 どんなに友達が優しくても、同じものを見ることなんて出来ない。

 黎の気持ちをわかってくれるわけじゃない。

 でも…ちゃんと見てくれる人と出会えた。


『素敵な目をお持ちなんですね』


 いつの日か言ってくれた言葉。

 柔らかく笑って、慈しむような目で黎を見てくれた。

 

 ただの日常の、ほんの些細なことでも褒めてくれる。

 見てくれる。


『人と妖では住む世界が違う』


 分かってる。

 でもまだ縋っていたい。

 一緒にいたい。

 大切にしてくれるなら、同じものを返したい。


「俺は、まだ行かない。行けない、行きたくない!」


「たとえ一人になってもいい。誰にも愛されなくてもいい!」


「今はまだ、ちゃんと、生きていたい!」


 腕を振り上げ、下ろす。


 鈴を鳴らす。

 

 必ず助けるって言ってくれた。優しい神の遣い様。

 俺はちゃんと、貴女に…


 

「………黎!」

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