26.丑三つ時
微ホラー注意
取った…というより、襲ってきた『思霊』を屋台のおじさんが袋に入れてくれた。金魚すくいやスーパーボールすくいをしたあとに入れてくれる袋みたいなやつに。
それを手首に引っ掛けて中を覗くと、光がふわふわ、くるくると踊っているようだった。
思わず見とれていると、手をクイッと引っ張られた。
「黎くん、前を見ていないと転んでしまいますよ」
「わ、ごめん。ありがとう」
少し人(?)が多くなってきたようで、ミサキに手を引いてもらえていなかったら、ぶつかってしまっていた。再度、お礼を言うと気にしなくていいと言うように笑い、「次はあちらへ行きましょう」とまた手を引いてくれた。
他にもいろいろなところを回った。
ふわふわな綿あめ(口に入れると食感や味が変わるらしい)に、蜥蜴の尻尾の丸焼き(味付けしない方が美味しいらしいが、様々なパウダーが準備されてた)、光るブレスレットやネックレス(着けすぎると締め付けてくるらしい)、射的台には誰かの目玉や角などが景品となっていた。
改めて、別世界なんだと自覚した。
ふと、視線を感じた。人の視線を感じること自体は、黎にとって珍しいことではなかった。だが、今日は訳が違う。
キョロリと、辺りを見渡すが人が多すぎて誰が見てるのか分からない。しかも、全員顔を隠しているため、視線を特定しづらかった。
「黎くん?どうかしましたか?」
心配そうに声をかけてくれるミサキに首を振り、なんでもないと笑った。
多分気のせいだろう、いつもより気を張ってるから変に思っただけだと言い聞かせた。
だが、少しざわざわしている気がする。上を見上げると、魂が入った提灯がゆらゆらと不規則に揺れていた。
思ったよりもしつこい。と、ミサキは感じていた。
ここに来た時から見られている感覚があった。それは、ウカのせいもあるがそれにしても多すぎる。正一位の神であるウカが祭りに姿を見せれば、どうしても周囲はざわつく。この祭りには、主祭神がいない。そのため問題が起これば、その時祭りにいた1番位の高い神が収めるのが暗黙の了解だ。何時何が起こってもいいように、祭りに訪れた神々の所在は他の妖たちにも把握されている。
(それにしたって、多すぎませんか?)
時折ウカと目線を絡め、黎に気づかれないように周りを警戒しあっていた。楽しそうにしている所に水を差したくない。出来る限り、安全に楽しんで欲しいのだが、如何せん、視線が鬱陶しい。
このままでは、黎が視線に気づくのも時間の問題だろうと思っていた。
案の定、周りを見ると言うよりは、周りを警戒するような動きできょろきょろとし始めた黎。
それとなく聞いてみたが、なんでもないと誤魔化されてしまった。
ウカに頼み、視線の主を特定しても良いのだが、そろそろ丑三つ時。幽世の祭りが1番賑わう時間帯がやってくる。
「黎くん、もう少しすると来場者が多くなってくるので、はぐれないようにしてくださいね」
「わかった、気をつける」
最優先は黎である。
ウカを見ると、小さく頷いてくれた。ウカも同じ考えなのだろう。
視線に関してはウカに任せ、ミサキは黎の手を改めてギュッと握った。
ミサキが言った通り、少しずつだが人が増えてきた。手を離せば、すぐに流されてしまうかもしれなくて、力を込める。それに応えるようにミサキも力を込めてくれた。
ぎゅうぎゅうと、おしくらまんじゅう状態で、黎より小さいミサキはすぐに潰されてしまいそうだった。見失わないように、小さく揺れる真っ白な頭を目で追っていた。
…追っていたのだ。
ふっ、と手が軽くなった。繋いでいたはずの手の感覚がない。それどころか、ザワザワと賑やかだった音が消えた。顔を上げると、確かに今までいた所のはずだ。屋台もあるし、よく分からない食べ物や飲み物が並んでいる。
だが、人がいない。前を、手を繋いでいてくれたミサキがいない。
後ろを歩いていたはずのウカも、姑獲鳥も居ない。
「え、なんで…?」
ポツリと零れた言葉は、誰にも届かず落ちていく。
人知れず、リンッ、と鈴が鳴ったが黎は気づかなかった。




