25.散策
微ホラー注意
どこを見渡しても、人や妖で溢れている。
人と言っても、本当に人かは怪しいところだが、皆楽しそうにしている。
黎は、ミサキに手を引かれながら屋台を巡っていた。
屋台に並んでいたのは、色とりどりの食べ物。いや、本当に食べ物か怪しいものもいくつかあった。
「何か気になるものはありますか?」
と、聞かれるが、気になるものしかない。
いちご飴やチョコバナナっぽいものはあるが、多分違う。だって、普通動いたりしない。ドクドクと波打つように動いている。
隣の屋台では、飲み物が売られている。ラムネっぽい瓶に入っているのは毒々しい色のゴポゴポと音のなる飲み物。隣のお茶らしきものは、変な湯気が上がっている。
「……なんか、凄いところだね」
「そうですね、食べ物関連は刺激が強いかも」
苦笑いを浮かべながら、早足に食べ物ゾーンを通り過ぎていく。
「お、兄ちゃん!これ食うか?」
差し出されたのは、串に刺さった目玉。驚き、1歩後ろに後ずさると、トンとウカの胸に当たった。
「カエルの目玉の串焼きか」
「食べてみますか?」
「いや、カエルの目玉はちょっと…」
お面をしていて、良かった。
今の黎の表情は、とても引き攣っていたことだろう。
ミサキは店主のおじさんに丁重に断りを入れ、その場を後にした。
「あ!ウカ様、あれ!」
何かを見つけたミサキは、嬉しそうに黎の手を引っ張りながらウカを呼んだ。
目線の先には、金魚すくいのような形式の屋台。中には、ふわふわと光るものが漂っている。
「これ、何?」
「黎くんには、何に見えていますか?」
思わぬ返しに、首を傾げる。
「何にって、光?ふわふわしてるね」
「…黎くんの目にはそう見えているんですね」
そう言って教えてくれたそれの正体は、『意思』だった。幽世まで流れ流され、形を持つほどに積もった願いや思い。
別名、『思霊』とも言うそうで、幽世のお祭りでしか見かけることができない代物らしい。
「取れるか取れないかは運次第です。必ず取れる訳じゃないんですよ?何回やっても取れない時は取れないし、逆に1回で取れちゃうこともあるんです」
取れた『思霊』は、数日間自分の部屋や家のどこかに置いておく。そして、夏の終わりには灯籠に願いと思いを乗せて流す。そしていつの日かまたこの幽世に流れ着くのだと、楽しげに語ってくれた。
「せっかくなので、黎くんもやってみましょ?」
「え、俺も?」
「ウカ様!良いですよね?」
反対側の屋台を見ていたウカは、チラリとこちらを見るとゆっくり頷いた。
屋台のおじさんにポイ(骨組みだけ)を貰う。初めにミサキにお手本を見せてもらう。
ミサキはポイを手に持つと、ゆっくりと水槽に近づいてポイを沈めた。数秒経ってから、慎重にポイを持ち上げると、何故か分からないが光が絡まるように付いていた。
「こんな感じです!」
「何も分からないんだけど…」
「大丈夫ですよ。さあ、やってみてください!」
ミサキに促され、黎も水槽の近くにしゃがみ込み、ミサキと同じようにやってみる。
「コツは、なにか引っかかったらポイをあげることです。ゆっくり、慎重にですよ」
楽しそうに遊ぶ子供2人を横目に、ウカは反対側の屋台に意識を向ける。幽世に来てから、視線が鬱陶しい。
ウカがこの場に来るのは珍しいせいか、チラチラと見られているのは知っていて放置していたが、些かしつこいような気がする。だが、特に悪意は無い。ただ気になって観察しているだけのようだが、それはそれでタチが悪い。
幸い、人の子は気づいていないようで安心する。ミサキは時折こちらへ視線を寄越すことから、気づいているのだろう。気づいていないフリをして、無邪気に遊んでいる姿に、器用なことだと感心した。
姑獲鳥も気づいていることから、見てる連中は隠れる気がないのだとわかったが、どうしたものかと思考を巡らせた。
「わー!黎くん、凄いです!」
「ね、これ、ど、どうするの!?」
大きな声が聞こえ、振り向くと『思霊』が人の子を襲っているところだった。
『思霊』は、思いの塊であるため、小さな意思を持っている。好き嫌いが激しく、嫌いだと判定した相手には一切寄り付かない。逆に好ましいと感じた相手にはああして襲いかかるのだが…
「襲われすぎだ」
「ウカ様!」
「な、何が起こったの?」
「ダ、だいじょ、ぶ?」
手で払うように追い払ってやると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。だが、逃げずに人の子に張り付いていた『思霊』は、そのまま持ち帰ることが決まったようだった。
「楽しめたか?」
「なんだったのあれ…」
「好かれたんだろ、良かったな」
納得いかないという表情を向ける人の子の頭を撫でて、次へ行けとミサキを促した。
先程までの視線は、いくつか減っていた。




