23.お誘い
「黎くん、今日はお泊まりですよね?」
昼食も終わり、片付けを黎に手伝ってもらっていた。ふと思い立ったので、問いかけると肯定と共に、姑獲鳥と一緒にお世話になりますという旨の挨拶をされる。とても礼儀正しい子で出会った時から変わらない姿勢に感心してしまう。
「黎くんと、姑獲鳥さんが良ければ、一緒に夏祭りに行きませんか?」
「夏祭り?」
首を傾げながら、言葉を復唱する黎と姑獲鳥を見ながら説明する。
「この時期、幽世では夏祭りが行われるんです。私とウカ様も毎年行っていて、興味があれば一緒に行きたいなって思ってて、どうですか?」
幽世とは、黄泉と現世の狭間にある神域のこと。
夏になると、お盆も近いため盛大な夏祭りが開催される。死者も生者も妖怪も神も入り交じった大きなお祭りである。祭りの間は皆が面を被り、お互いの正体を詮索しない。だからこそ、人の子である黎が紛れ込んでも大きな問題にはなりにくい。
「あ、屋台のご飯は私かウカ様の許可を貰ってから食べてくださいね?差し出されたものを勝手に食べると、大変なことが起こりますから!」
小さい子を窘めるように、めっと注意すると微妙な反応をされた。
「それ、本当に俺が行っても大丈夫?」
「たまに人間の方も見かけるので大丈夫かと、ね?ウカ様」
「…本来なら止めるが、我と一緒に居ると言うなら許可しよう」
宇迦之御魂神は、神の位で言うと正一位という、最も位の高い神である。どんなに顔を隠していたとしても、神同士であれば何となくわかるし、低級の妖などは本能で近づかない為、ウカの傍にいれば比較的安全である。
「怖いのは、迷子になることですね。私とお手手を繋いでましょうね」
「恥ずかしいけど……わかった。行ってみたいな、夏祭り」
「やったぁ!では、夕食後に行きましょう!あ、その前に浴衣を選びましょうね。姑獲鳥さんも!」
断られなかった喜びと、一緒に行けるワクワクでテンションが上がってしまった事は認めるが、呆れたような視線をウカに向けられたのは、納得が行かなかった。
「では黎くん、行くまでにお勉強は終わらせておいてくださいね」
にっこり笑顔で言うと、黎は笑いながら頷いた。それを見てから、片付けを再開し少しの休憩を取りながら、ウカと黎の浴衣を式神たちと見繕っていた。
この前貰った服の中に何故か男物の浴衣や着物まで入っていた。ウカへの嫌がらせか、間違って入ってしまったかは分からないが、ちょうど黎に似合いそうな浴衣だったため、候補として手に取っておく。全てミサキが選んでも良いのだが、せっかくのお祭り、せっかくの浴衣な為、黎自身に選んで欲しかった。
浴衣や帯、履物に小物類まで色々と黎に似合いそうなものを数種選んで行く。帯と言っても角帯か兵児帯の二種類があるし、履物も下駄、草履、雪駄と三種類もある。
そして大事なお面。顔を隠すためのもので、幽世へ行く時は必須アイテムである。そのお面も選んでもらう為、数個準備しておく。狐のお面は全てミサキの手作りであり、一つ一つ表情と込められた願いが違う。
元々、ミサキが作ったものには厄除けの呪いが付与されている。どの子を選ぶか今からとても楽しみで仕方なかった。
「私は、この格好にレースのストールを合わせちゃえば良いよね?」
「お似合いと思いますよ」
「履物は、どうなさいますか?」
「うーん、一緒に貰った下駄を履きたいけど、慣らしてないなら痛くなるよね?白の鼻緒の下駄にします」
「そうですね。黎様をご案内するのであれば慣れている下駄の方が良いかと思います」
「ご準備しておきます」
「ありがとうございます!」
自分のは簡単に決まった為、今度はウカのを選んで行く。黎と一緒に選んで欲しい気持ちもあるが、しないだろうなと考え勝手に決めていく。
いつもは黒や紺を着ているウカだが、今日はミサキとは別の浴衣を着てもらうことにする。
白い浴衣に撫子が金の刺繍で描かれている物に、黒の兵児帯を合わせてお揃いっぽくしておく。履物は黒塗りの下駄にすれば完璧である。
あとは着てもらうだけ。ミサキは黎とウカをウキウキで呼びに行くのだった。




