22.ウカの屋敷にて
お泊まり会から数日後…
黎は夏休みの課題をするため、ウカの屋敷に姑獲鳥と共に訪れていた。いつもなら、図書館の学習室でやるのだがミサキから「是非遊びに来てください」と誘われ、特に断る理由もなかった為、泊まり道具を持参して訪れたのだった。そして、時折ウカに教えて貰いながら課題に勤しんでいた。
ちなみに、澤田から時折子供の足音と声が時折聞こえるという相談をされること以外は、特に何も起こっていない。
百物語は100個怖い話をすると何かが起きると言われているが、5個くらいでは特に何も無かったようだ。
「進んでおりますか?」
「ミサキ、代われ」
「ウカ様、私はさすがに人の子に教えられる程の知識はありません」
ウカを軽く交わしながら、冷たい麦茶を渡される。
2人のやり取りが面白かったのか、姑獲鳥はクスクス笑っていた。お礼を言いつつ受け取り飲むと、冷たい麦茶が食道を通り胃に行くのがわかった。
山の中だから、あるいはこの屋敷に何か秘密があるのか分からないが、ここはあまり暑さを感じない。だが、体は暑さでへばっていたようだ。
「今日のお昼は、素麺にしましょうか」
「あ、手伝うよ」
「ありがとうございます。でも、ただ茹でるだけなので大丈夫です。お勉強を頑張っているんですから、少しは休んでいてください」
「じゃあ、お夕飯は手伝うね」
「とっても助かります!ありがとう、黎くん」
満面の笑みを浮かべながら、本当に嬉しそうにそう言った。
そして、くるりと反転してから戸の方へかけて行った。
今日のミサキの服は、薄手のダークグレーの浴衣を着ている。生地の色よりも薄い色で大輪の百合が描かれていてとても美しい。そこに、マゼンタピンクの兵児帯を着けていて、動く度にヒラヒラと動く様は金魚のようで可愛かった。
「珍しい色の浴衣を着てましたね」
「トッテモ、カワイ」
いつもは明るい色の浴衣を着ているので不思議に思い、ウカに言葉をかける。すぐに答えてくれないのを知っている為、じっとウカを見つめていると、チラリと横目で黎を見た。
「…先日、面倒な女神が持ってきた」
「女神様?」
女神と聞くと、黎は咲耶姫が思い浮かび微妙な心境になった。
「夏の女神の筒姫だ」
夏の女神。季節ごとに司る女神が居ることはミサキに教えて貰ったため知っていた。
そして、心底嫌そうに言うということは、相当厄介な女神様なのだろう。黎もあまり関わりたくないため、深くは聞かないことにした。
「その方が、ミサキちゃんに服を贈ったのですか?」
「あれもこれも似合うと、一部屋埋まるくらいにな」
「一部屋…」
思っていた倍の量を贈られていた。
「流石にそんな量は貰えんと言うことで、天狗のところにも分けたのだ。それでも、衣装部屋が十分潤うくらいは貰ったが」
その時のことを思い出したのか、ため息を吐くウカに同情の眼差しを向けるしか無かった。
しばらく雑談をしていると、廊下からタッタッという足音が聞こえてきた。
(そういえば、澤田の家で聞いた足音はミサキちゃんくらいの子供の足音っぽいな)
ゆっくりと戸が開かれると、ミサキが膳を持って来ていた。
「素麺が茹で上がったので、お昼にしましょ?」
その言葉に慌てて課題道具を片付け始めた。片付け終わる頃には既に用意が出来ていて、あとは食べるだけとなっていた。
仕事が早いな、なんて呑気なことを考えていたのを見透かされたのか、早く座れとウカに言われてしまった。
姑獲鳥と一緒に席に着くと、ミサキの先導の元、挨拶をしてから食べ始める。
素麺だけかと思っていたが、たっぷりの薬味ととり天が添えてあった。
つけ汁にたっぷり生姜と刻まれた大葉と海苔を入れてから素麺を漬ける。薬味も一緒に掬い口へ運ぶ。これだけで満足なのに、そこへとり天も加えて食べると口の中が幸せになる。
施設のご飯と違い、沢山のの愛情が込められている食事に思わず頬が緩んだ。
本当に、とても美味しくて最高な昼食でした。




