11.施設にて
「ァ、オカエリ」
「…ただいま」
学校が終わり、施設へ戻る。4人1部屋の大部屋に足を踏み入れると、そこに居た姑獲鳥は、黎を見て嬉しそうに微笑んだ。
「今日は、どこに行ってたの?」
「ミサキ、チャンノトコ、ロ」
「ミサキちゃんの?」
「ソウ、キニナルコト、アッタカラ」
「そうだったんだ」
ニコニコと笑う姑獲鳥を見て、それ以上聞くことはしなかった。聞いたところで、答えてくれるかも怪しい。
特に気にせず、机に向かい勉強道具を取り出す。今日習ったところの復習と、テストで出たところの復習を始めた。
その間、姑獲鳥は静かに見守っている。極力音を出さないようにしながら、黎の後ろから覗き込む。
忙しなく動く黎の手を姑獲鳥の目が追う。
紙とペンが擦れる音に耳を傾ける。
時折、独り言のように呟く言葉を不思議そうに聞いていた。
ただ勉強をしている姿を見ているだけだが、とても楽しそうにしているのだった。それに黎は気づいていた。初めてされた時は邪魔するなと言いたかったが、こんなに楽しそうにされれば邪険にもできない。今では、気づいてないふりをしながら、姑獲鳥の方を見ないように勉強に集中するしか無かった。
「黎お兄ちゃん、ごはーん!」
「今行くー!」
幼い声が聞こえて、顔を上げる。時計を見ると、勉強を始めてから2時間経っていた。そんなに勉強していたつもりは無かったが、いつの間にかこんなに時間が過ぎてしまっていた。慌てて片付けをして食堂に向かうと姑獲鳥も後を追うように着いて来た。黎はご飯を貰っていつもの席に座り、他のみんなを待ちながら頭の中で英単語を呟いていた。
「皆さん、今日もお疲れ様でした。皆さんがとってもいい子で私は嬉しいです。それでは、手を合わせて、いただきます」
「「いただきまーす!」」
先生が、いつもと1字1句違わない言葉を言ってから挨拶する。それに伴うように皆も声を合わせて挨拶してから食事が始まる。
可もなく不可もない味。今日のご飯は、白ご飯に豆腐の味噌汁、生姜焼き、キャベツの千切り、漬物だった。他のテーブルでは、野菜やだー!とか、豆腐やだー等という声が聞こえてくる。
美味しいことは美味しいのだろう。だが、ミサキのご飯を知ってしまった黎は、施設の料理が味気ないものになってしまった。
ミサキの料理は暖かくて、お腹も心も満たされる。相手のことを考えて料理が作られていて、苦手だなと思った食材は次回以降お皿に乗らないし、これ好きだなと思ったものは多めに盛ってくれる。特に何も言ってないのに。それがミサキの優しさで心遣いなのだろう。
それと比べては失礼なのは分かっている。だが、他の子と比べて数が少ない肉をキャベツを多めに盛って誤魔化されているし、味噌汁に入っているはずの豆腐は入っていない。隣の子の器を見て豆腐の味噌汁だったことに気づいたくらいだった。
こんな嫌がらせは今に始まったことじゃない。いつもの事。声を上げたところで変わらないし、食べれるだけマシということなのだろうと、自分を納得させていた。
黎の悲しい顔を見て、姑獲鳥もいっそう悲しくなる。
だが、何かするわけにはいかない。前にこの理不尽なことに耐えきれず、ちょっとだけ問題を起こしたら余計に黎の立場が悪くなった。黎は悪くないのに、何故か怒られていた。
ゴ、ゴメンナサイ…
気にしないで、いつもの事だし
と、笑いながら流す黎を見て余計に悲しくなったのを思い出した。そして、どうしたら黎を巻き込まずに済むだろう?と考えていた。自身の子を傷つけられるのを黙っている母では無かった。
一先ず、ミサキちゃんに美味しいご飯を作ってもらおうと考えていたのであった。




