10.昼休みにて
「って、話なんだけど」
「何怖い話聞かせてんだ!!」
「それ、作り話だよな?そうだよな?」
「おい森、大丈夫か…って、死んでる…」
「イイテンキ…」
「生きろ森ーー!!」
騒がしい教室の窓側に、一際騒がしい集団。いきなり本田が真面目な顔して話すから、何事かと思い耳を傾けたら、怖い話が始まった。
本田の口調が妙に生々しく、ゆったりと話すものだから、誰も口を挟めず最後まで聞いてしまった。
立ち上がりながら怒鳴る澤田の声に、クラスメイトの何人かがビクついた気がした。黎は軽く手を合わさてごめんのポーズで周りを見ると、皆手をヒラリとして許してくれる。澤田が優しいことは全員分かっているので、特に問題ない。
清水は本田の肩に手をかけガクガクと揺すりながら、この話の真意を聞いていた。が、そろそろ止めた方が良いかもしれない。先程まで食べていた昼食が無惨な姿でリバースしそうな顔色になっている。
清水を宥めて、本田に水を差し出しながら森を見る。大のホラー嫌いな森は遠い目で窓の外を見つめていた。いい天気と言っているが、今日は生憎の曇り空である。半分くらい魂が抜けている気がする。
「そんなに怖いか?この話」
「怖いだろ?!」
「見ろ!この森の姿を!」
「イイテンキ…」
「森、大丈夫か?」
「そこまで怖くない話って書いてたから大丈夫だと思ったんだが…」
「多分、本田の話し方も相まったかも」
「なるほど。なら今度はポップに話してやるよ」
「そうじゃない!」
本田の斜め上の提案に苦笑いしか起こらなかった。あの手の話は大体、作り話なことが多いためそこまで怖くない。そもそも、黎は怖い話は信じていない。目に映るこの日常の光景の方が怖いので。
「本田、書いてたってどういうことだ?」
「ん?これだよこれ」
そう言って見せてくれたのはスマホ。画面には『本当にあったかもしれないお話』という名前のアカウント。不定期で更新されているらしく、最新の更新日は昨日の日付。そこには先程本田が語った内容が書かれていた。その前の投稿は先週、その前は先月と本当に不定期らしい。
「これ、この頃よく見かけるから読んでるんだよ。結構面白くてさ、そこまで怖くないのなら共有できるかと思って」
「それで、この惨状か…」
「その垢、俺もたまに見かけるけど即飛ばす」
「俺はフォロワーがこの前その話してた気がする」
「結構有名なんだ」
黎はスマホを持っていないため、ネット関係には疎かった。それを知っているこの友人たちは面白いことを見つけるとすぐに教えてくれる。そのおかげでスマホが無くてもそこまで不便ではなかった。
見るか?と聞かれ、有難くそのアカウントの投稿を遡るようにしてみていく。
ひとりかくれんぼの伝承
金縛りと女性の霊
山姥の日常
小豆洗いの美味しい小豆
など、他にも怖い話だったり都市伝説についてだったりが書かれていた。題名からして、興味がそそられる話が多い中、時折、見てきたかのような描写で書かれている話があった。3個に1個くらいの割合で。
その中の1つの投稿を読んだ黎は、目を見開いた。
「なんか気になるのあったか?」
「そ、そんなに食い入るように見る内容?」
「姑山くん、怖いの得意だもんねぇ…」
「黎、大丈夫か?」
「…あ、うん、大丈夫。ありがとう、本田。なんか色々あるね。小豆洗いの美味しい小豆は、なんか普通に面白かった」
取り繕うように笑顔を浮かべ、お礼を言いながら本田にスマホを返す。心配そうな顔を浮かべる澤田には気付かないふりをして。
ちょうどタイミングよくチャイムがなり、全員自分の席へと戻っていく。戻る途中、澤田に「無理はするなよ」と言われたが、曖昧な微笑みを返すしか無かった。
授業を聞き流しながら、さっき見た投稿を思い出す。
姑獲鳥の親子
という題名の話。
(あの話は多分、姑獲鳥さんと俺の話)
当事者にしか分かり得ないことまで書かれていた。姑獲鳥が子供を攫っていたことや、その子供は酷い扱いを受けた子供だったこと。姑獲鳥の子供は転生して普通の子として生きていること。運命によって、姑獲鳥とその子供は出会い、一緒に暮らしていることなど、本当に詳細に書かれていた。
ほんの少し、ミサキやウカが書いたのでは?と思ったが、そんなことする理由もなければ手段もない。ならば、あの女神たちだろうか?
考えても仕方ないことなため、早めにミサキに報告と相談をしようと思ったところで、先生にあてられたため、答えるために席を立った。




