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08.執着心

「そういえば、姑獲鳥さんは一緒じゃないんですね」


 特製冷やし中華を食べながら、ふと疑問に思ったことを黎に聞いてみる。いつもは一緒にいる姑獲鳥の姿が見当たらない。黎は、一生懸命もぐもぐと口を動かして首を傾げる。


「わはんない」


「黎くん、ゴックンしてから話してください」


「……ごめん。姑獲鳥さんは、わかんない。今日朝から居なかったから」


「朝からですか?どこ行っちゃんたんでしょう?」


 黎の態度からして、よくあることらしい。特に気にしている様子は無いし、むしろ居ないことに安堵している様子さえある。

 関係が上手くいっていないのかな?と思ったが、それもそうだろう。いきなり現れて母と名乗られても困惑するし、妖怪だしで苦労が伺える。

 ミサキ自身も、この屋敷に来た時は警戒していたし、自分から関わろうともしなかったのだから。


「ミサキちゃん、相談があるんだけど聞いてくれる?」


「ご相談ですか?勿論!私でよければ力になりますよ!」


「ありがとう」


 嬉しそうな笑顔につられる。こうして頼ってくれるのはとても嬉しい。しかもウカを頼るのではなくミサキを頼ってくれるのが余計に。

 相談や願い事ならウカの方が得意なため、ミサキはお手伝いをほんの少しする程度。それを特に不満に思ったことはないが、頼られてみたいという気持ちは少なからずあった。だから、不謹慎だがとても浮かれていた。



「姑獲鳥さんが、時折すごい目で見てくるの」


「すごい目?えっと、もっと詳しく知りたいです」


「うーん、なんだろ?じっとりと重い感じの視線?俺が気づかないと思ってるんだろうけど、視線には敏感というか、なんというか…」


 凄く言いずらそうに目を逸らしながら言う黎に、ミサキは首を傾げる。


「それって、どんな時に感じますか?」


「この前は、友達と勉強してる時とかかな?あとは、学校とか、人が多いところだと余計に感じるかも」


「姑獲鳥さんって、学校にも一緒に行くんですね……」


「…そうなんだよね、来ないで欲しい」


 切実そうな声で言われるが、ミサキは苦笑いをするしか無かった。そういう方々って、見えていないことを良いことに何処にでも着いて行きますよ。って言ったらどうなるんだろう…なんて考えたが、黎の表情を見て口を噤んだ。

 そして、話を聞いて視線の意味も理解できてしまったが、言うか言わまいかを考えていた。


 誰かと一緒にいるところ、イコール、黎が姑獲鳥を見ていないところで熱烈な視線を送る。しかも、じっとりと重い視線を…


 (完全に執着心!!)


 嫉妬とかも混じってそう!てか、絶対混じってる!と1人頭の中でお祭り騒ぎ。チラリとウカを見るが、我関せずと言った表情で本を読んでいた。伝えることは簡単なのだが、伝えた後が問題である。まだ警戒している黎に余計な不安を抱かせないか、拒絶の意志を見せてしまわないかと、密かに危ぶんでいる。

 神様もそうだが、人ならざぬものは1度執着するととても面倒臭いものなのだ。お互い無干渉までは行かないが多少の干渉までならいざ知らず、拒絶の意志を見せた時相手は絶対逃さないという思考になり、どんなことをしても手元に置いておこうとするのだ。

 その為、言っても良いものかと思考がグルグルしていた。


「ミサキちゃんにも、分からない?」


「そ、そうですね…ちょっと難しいお話なので…」


「そっか」


 嘘は言っていない。本当にとても難しい話なので。ウカに視線で助けを求めるが、こちらをチラリと見ただけで、何も言ってはくれなかった。

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