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07.優しい人

憂鬱だったテストも梅雨も終わり、本格的に夏になってきたある日。夏休み前ということもあり、浮かれていた自覚はあった。

 どの先生も、「3年生なんだから」とか、「受験のことも考えて、家では勉強しなさい」だとか言う。その通りではあるが、言われる度にやる気が無くなってくるのは、何故なのだろう。

 そんなことを考えながら、慣れたように山の中を歩く。正規の道から外れた少し歩きづらい道。だが、足取りは軽やかだった。


「にんげん」


「またきたか」


「あそべ」


 足元から声が聞こえ、そちらに顔を向けると、濃い緑色の葉っぱの服を着た子供たちに囲まれていた。

 10数人が輪になるように囲んでいるため、逃げ場がない。


「ごめんね、今日は遊べなくて」


「あそべ」


「あそぼ」


「えっと、だから遊べないんだって…ミサキちゃんのところに行くから」


「私を呼びましたか?」


 幼い女の子の声が聞こえ、後ろを振り返ると、木漏れ日に反射してキラキラと輝く白い髪。珍しいワンピース姿に目を見開いてしまった。青から白へのグラデーションがとても綺麗で涼し気な姿。汗一つかいていない彼女は、こちらを認識すると、大きな目をさらに大きくして、そして嬉しそうに名前を呼んでくれた。


「黎くん!お久しぶりです!」


「うん、ミサキちゃん久しぶり」


 テスト前ということもあり、なかなか会いに来れなかった為、3週間ぶりの再会。手を繋いで嬉しそうにしてくれるミサキに黎も自然と頬が緩んでくる。


「木の子たちと遊んでたの?」


「そうなんですよ。かくれんぼをしていたんです」


「にんげん」


「あそぼ」


「おに」


「かくれる」


「え、いや、俺はやらないって」


 断るよりも早く、木の子たちは姿を隠してしまった。困惑顔でミサキを見るが、ミサキはにっこり笑うだけ。


「黎くんが鬼ですね!私も隠れます!10数えてね」


「ちょっと!ミサキちゃん!?」


 ガックリと肩を落とし、諦める。こうなれば、全員捕まえてやる!と気合を入れ目を閉じ数を数える。


「もーーいいかーーい!」


 もーいーよー!


 遠くの至るところから声が聞こえたのを確認して目を開ける。よし!と気合いを入れて、黎は1歩踏み出した。



 結局、かくれんぼが終わり、屋敷に戻ってきたのは申の刻の少し前。びっくりするほど見つけられなく困っていた黎を見かねて、ミサキが手伝ってくれた。2人がかりでも全く見つけられなくて、見つけた子たちにも手伝ってもらい、大捜索となった。


「ただいま帰りました!」


「おじゃまします」


「お帰りなさいませ、ミサキ様、黎様」


 屋敷に帰ると、式神が出迎えてくれた。相変わらず顔は見えないし声の抑揚もない。その為、毎回のように警戒してしまう。優しい人(?)とわかっていても、長年の人間では無い者を警戒する癖は中々抜けなかった。


「また来たのか人の子」


「ウカ様!ただいまです!」


「お帰り、遅かったな」


「ちょっと、大捜索してまして」


 重く、怖い圧に体が強ばるが、和やかに話すミサキを見て、体の力を抜く。ミサキと話しているのが、宇迦之御魂神。本物の神様。初めの方は、怖くて得たいのしれない者だという認識が強かったが、会う度にその認識が崩されていくようだった。

 大前提として、この方はミサキが大好きだった。ミサキの言うことならなんでも聞くし、なんでもやる。それでいいのか神様…と何度も思ったが、黎が気にすることでは無いため、口には出さなかった。

 そして意外だったのは、案外人好きだということ。ミサキ以外は興味無いと言う風にしているが、偶に来る黎や木の子に優しい。そこまで邪険されない。前に来た時は勉強を教えてくれた程だった。

 ミサキがご飯を作っている間、勉強をしていた時のこと。高校の範囲まで手を伸ばしていたのだが、応用問題が思ったよりも難しく1人でうんうん唸っていたら、優しく教えてくれたのだった。驚いたのは一瞬。解き方も説明も優しく丁寧で、学校の先生よりも分かりやすかった。全て教えるのではなく、ほんの少しだけヒントを出す程度だったり、聞けば詳しい説明も添えて教えてくれる。勉学の神様だったっけ?と考えたのは秘密だ。


「黎くん、ご飯食べますよね?」


「うん、食べる」


「今日は冷やし中華ですよ!具は好きなの乗せてくださいね!」


「楽しみ!ミサキちゃんのご飯美味しいから余計に」


 嬉しそうに笑いながら、準備してきます!と元気よくかけ出す後ろ姿を見て、あんなに遊んだのにすごいなと思った。式神はいつの間にか居なくなっていて、ウカと二人きり。


「宇迦之御魂神様、今日も勉強みてください」


「早く来い」


 ため息を着きながらも拒否はされなかったことに安堵しながら、ウカの背を追いかけた。

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