06.本当にあったかもしれないお話
「そういえば、あの話知ってる?」
筒姫が真面目な顔をしてミサキたちに問いかける。先程までの和やかな空気とは裏腹に、冷たい空気が流れている。
「あの話、とはなんのことでしょうか?」
恐る恐るといった様子で問いかける。怖いことが嫌いなミサキにとって、この雰囲気は恐ろしい。だが、聞かないままでいることも出来ない為、ウカに抱きつきながら頑張って聞こうとしていた。
「今、現世で流行っている怖いお話」
にっこり笑ったかと思うと、ゆったりとした口調で語り出した。
その子供は、普通の子供でした。お父さん、お母さんと3人暮らし。2人とも仕事で忙しいけれど、優しくて頼もしくて、子供は両親のことが大好きでした。
学校では、真面目に勉強をして学友たちと楽しく過ごしていました。
季節は、こんな梅雨の時期。どんよりとしたくらい雲が空を覆い、今にも雨が降りだしそうな日のことです。
子供が家に帰ると、両親は居ませんでした。まだお仕事かな?と思い、自室で宿題をしていました。数時間経つと、玄関の方が騒がしくなっています。帰ってきたんだろうと思いました。
おかえりー!
自室から大きな声で言います。すると、ドタドタと足音を立てながらお父さんとお母さんが部屋に入ってきました。
どうしたの?
尋常では無い様子に戸惑いながら、恐る恐る問いかけますが、両親には聞こえていないようで、返事をしません。
ねぇ、お母さん…
子供がお母さんに触れようとすると、崩れ落ちるように座り込んでしまいました。顔を見ると、手で覆っていて表情は見えません。
お父さん、お母さんが…!
お父さんの方に顔を向けると、今まで見たこともないような表情をしていました。怖くなり、子供は後退りをします。やがて、お父さんはお母さんを連れて部屋から出て行ってしまいました。
次の日、いつも通り起きてリビングに行くと、子供の分のご飯は用意されていませんでした。いつもは、挨拶をしてくれるのに、それすらありません。
お母さん、ご飯は?
そう聞いても、お母さんは答えません。
困惑しながらも、登校します。学校に着き、昇降口で靴を履き替え教室へ向います。教室のドアを開けて、おはよう!と言いながら入室しますが、誰もその子供を見ないし挨拶も返してくれません。
仲の良い友達に駆け寄り、おはよう!と言いますが、その子も他の子と同様です。まるで、いないものかのように、その子供を誰も認識しません。
先生でさえ、その子供を見ません。それどころか、机の上に花の入った花瓶を置く始末。
その日から、その子供は世界にたった一人、取り残されてしまいました。
「っていうお話よ」
筒姫が語ったお話になんとも言えない表情になってしまったミサキは、縋るようにウカを見上げた。ウカは優しくミサキを撫でるだけで何も言わない。
「筒姫様、そのお話に続きはありますか?」
「え?無いわよ?」
「そうですか…」
なんとも悲しいお話だと思った。よくある迷子の魂のお話。人の子たちは、怖い風に語るがそんなことは無い。自分が死んでしまったことに気づいていない子たちのお話だ。
「これをどこで聞いたんだ?」
「ネットよ?この頃、バズってるのよねこの垢」
バズ?聞き慣れない言葉に、ミサキとウカは顔を見合せて首を傾げる。
「『本当にあったかもしれないお話』っていうのをよく投稿してるのよ、見たことない?」
「筒姫様、私たちは筒姫様みたいにネットに強い訳ではありませんので…」
「あら、そうだったわね?使えば便利なのに勿体ないわね」
筒姫の言葉に乾いた笑いを浮かべる。
それにしても、『本当にあったかもしれないお話』不思議なことを書く人の子がいるものだと感心し、そしてますます困惑した。
筒姫が語った先程の話を見せてもらうとまるで、見てきたかのように書かれているようだった。語るために所々省略していたようだが、話の中に書かれている時刻が秒数まで書いてあったり、朝ごはんの内容が事細かに書かれていたり、学友たちの会話、花の色、種類、本数、その日の授業、先生の小話…他にも想像で書いたにしては、鮮明すぎる箇所が多くあった。
「ウカ様、これはどう思いますか?」
「さてな、その題の通りなのだろう」
『本当にあったかもしれないお話』
確実にあったとは言っていないが、それでもここに書かれた事が現実で起こり得た出来事なのであれば、ただの娯楽にしてはいけないような気がした。




