05.女神と神
それから一刻半程後、落雷の中その神と女神は現れた。
「ごきげんよう!元気だったかしら?」
熱い抱擁の後、ミサキを持ち上げクルクルと回り出す。青い短髪の髪がサラサラと揺れ、白いキャミソールに短パン、小さなコインが散りばめられたサンダルを履いている。足を動かす度に、コインがシャラシャラと音を鳴らしている。褐色の肌が美しいこの女神が、筒姫。夏を司る女神である。
「つ、筒姫様!下ろして、下ろしてください!」
笑いながら永遠に周り続ける女神に目を回しながらも、必死でお願いするが聞き入れてくれない。テンションが上がっている為聞こえないのだろうと思うが、怖いので早く下ろして貰いたい。心做しか、先程よりも回転のスピードが上がってきているのだ。
「わっ!」
「あー!」
ヒョイと持ち上げるように、筒姫からミサキを引き離したのは、アメノカミだった。
青い肌に銀の髪を高い位置に括った男。額からは鋭い角が2本生えている。瞳は赤く染っていて、本来白目の部分が黒になっている。相変わらずの強面で無表情な為、より一層近寄り難い雰囲気が出ている。
「もう!おチビちゃん返しなさいよ!」
「御前のでは、ない」
「アメのでも無いんだけど?」
「わ、私はウカ様のなので!アメノカミ様も下ろしてくださいー!」
一触即発の雰囲気を感じ取ったミサキは、素早くアメノカミの手から下り、ウカの元に逃げていく。
「はぁ、騒がしい。少しは静かにしろ」
逃げ込んで来たミサキを優しく抱きとめ、筒姫を見てため息と共に文句を言う。
だが、そんな言葉は筒姫には届かず、嘲笑うかのようにウカを見る。
「そんな嫉妬深いと嫌われちゃうわよ?」
「何を言う」
「あら?自覚なかったの?」
こちらもこちらで、一触即発の危機である。ウカと筒姫は水と油並に相性が悪く、毎年水面下でバチバチとした争いをしているのだった。
そんな空気を変えたのが、アメノカミだった。
「いきなりの訪問、失礼した」
「あ、いえ、お久しぶりでございます!お元気でしたか?」
「なんの変りもなく、ミサキ殿は?」
「私もウカ様もとっても元気でした!」
「それは、何より」
ゆったりとした口調のアメノカミと、ニコニコと楽しそうな声で話すミサキを見て、先程までの空気は鳴りを潜めた。
「おチビちゃん、この前は佐保ちゃんがごめんね?あの子ったら、何時からあんなこと考えていたのかしら?」
「いえ、筒姫様が謝るようなことは何も無く」
「そう?ありがとう、おチビちゃん」
太陽が照るような笑顔に思わず目を塞ぎたくなるが、グッと我慢をしてミサキも笑顔を返す。
佐保姫は春の柔らかな雰囲気の笑みをするが、筒姫は夏の太陽のようなギラギラと輝く笑顔を見せる。まるで筒姫本人が輝いているのでは無いかと錯覚するほどの眩しい笑顔。毎年のように浴びるが慣れることは無い。むしろ、年々輝きが増しているような気さえする。
「それで、お前たちは何用だ」
「せっかちね。私は普通に挨拶に来たのよ。アメの用事は知らないわ」
「我は、聞きたいことがあり参った」
「聞きたいこと?」
聞き返すように言葉を重ねると、ゆっくりと頷く。
「ここ最近、雨に関する願いは無いか?」
「ある。仕分けをしたから帰りに持っていくと良い」
「律儀だな。だが助かる」
緩く微笑んだアメノカミを見て、目を見開く。ウカ並に表情が変わらないこの神が笑うなんて、この雨は当分止みそうに無いなと、とても失礼なことを考えていた。
「聞きたかったことって、それ?」
「そうだが」
「遣いを出せばいいじゃないの」
「別のところに出している」
「アメも律儀ね」
呆れたような声で言いながら肩をすくめる。筒姫の言葉に、ミサキも確かにと思った。わざわざ聞きに来るほどの事でもなく、遣いに任せれば済む話である。実際、ウカの所以外にはそうしているらしい。ならば何故わざわざウカの元へは来たのだろう?という疑問が浮かんできた。
その疑問に答えるように、アメノカミは少し視線を逸らせ、小さな声で言う。
「それと、旧友に会いたかっただけだ…」
「あら」
「わぁ!」
その言葉に思わず筒姫と一緒にウカを見つめてしまう。ウカは、アメノカミの言葉に驚いたのか、それとも照れ隠しなのかは分からないが、「終わったならさっさと帰れ」と言い、顔を背けてしまった。
思わぬ形で仲良しな関係を感じ取れて、筒姫とミサキは目を合わせて小さく笑った。




