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03.水菓子

「洗濯物が乾かないです…」


 ミサキはどんよりとした空を見上げて、ポツリと呟いた。梅雨入りをしたせいで、この頃雨がよく降る。降らなくても、今にも泣き出しそうな空模様で、なかなか洗濯物が乾かなくて困っていた。

 ここはウカの神域であるため、天気を操ることは出来るのだが、あまりやって欲しくない。季節も気温も天気も、自然に任せたいと思うのだが、そうも言ってられなくなってきた。


「ミサキ様」


「あ、式神さん!」


「お洗濯物を干してくださり、ありがとうございます」


「いえ!でも、今日もすぐには乾きそうがないです」


 一緒に家事をしていた式神の声掛けに嬉しそうに振り向くが、また空を見あげシュンと落ち込んでいた。そんな様子に頬が緩まる式神。抑揚のない声ではあるが、ミサキを安心させるように優しく言う。


「大丈夫です。薄い生地ですので、ちゃんと乾きますよ」


「本当ですか?」


「はい、安心してください」


「式神さんが言うなら間違えないですね!ありがとうございます!」


 先程までの落ち込みとは打って変わり、パッと花が咲くように笑うミサキを見て、式神も笑ったような気がした。

 


「ウカ様ー!そろそろ休憩してください!」


 トタトタと足音が聞こえ、声をかけながら部屋に入ってくるのを見て、ウカは筆を置いた。小さな花が散りばめられた薄い水色の着物にラベンダー色の帯を巻き、白のレース生地の羽織を着たミサキ。白くて長い髪は頭の高い位置で2つに結われている。手にはお盆を持ち、湯呑みと水菓子が乗せられている。


「お部屋の換気もしちゃいますね」


 ウカが許可を出す前に、襖や窓を開けていく。少しため息をつきながら、仕事道具を片付け始めた。


「今日のおやつは、すももとスイカです!おすそ分けを貰ったんですよ」


「ほぅ、美味しそうだな」


「とっても甘くて美味しいんです!」


「先に食ったのだな?」


「あ……」


 しまったという風に口を隠して目を逸らすのを見て、小さく笑った。先に食べたとしても全く問題はないのだが、思わず意地の悪いことを言ってしまった。だが、この可愛い反応を見れたのでウカは満足だった。


 春に出会った天狗の親子との交流は、ミサキを通して続いていた。時折、子供たちだけで来ては、ミサキや式神に料理を習って帰っていく。父親だけでなく、稀に母親を連れて来たりもする。その時、手土産として果物や野菜、魚や肉などの食べ物や天狗の里で作ったらしい薬をくれることがある。

 怪我をすることは滅多にないので薬を使うことは無いのだが、水仕事をするミサキの為に作られたハンドクリームは、愛用するほど気に入っているらしい。


「甘みが強いな」


「そうなんです!酸味が少なくて食べやすいんですよね」


 すももは甘みが強く、酸味がある皮と食べるとちょど良い塩梅になるが、酸味が苦手なミサキは皮をむいて美味しそうに頬張っている。スイカもみずみずしく、脱水気味だった体に染み渡るようだった。


「お仕事、お忙しいですか?」


「この時期だからな、我の管轄でない願いまで来るのだ」


「それは、困っちゃいますね」


 ウカの管轄は五穀豊穣や縁結びである。それを理解していないものたちは、神だからと一括りにして願っていく。雨を降らせて欲しいだの、雨を止ませて欲しいだの、出来ないことを願うなと言いたいが、そんな言葉は届くはずもなく、こうして願いの仕分けをしなくてはいけないのだった。


「その仕分けたお願い事は、他の方へお願いしに行くんですよね?」


「やるかやらないかは、その神次第だがな」


 それも面倒で嫌になる。やらなくても良いのだが、何故か毎回律儀にやっているウカであった。

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