02.様々な目
友人たちに勉強を教えながら、そっと視線を上げる。そこには、身体を真っ黒な鳥の羽で覆われた、黒髪の女性。姑獲鳥と呼ばれる妖怪である。ひょんなことからこの妖怪は、黎の母を名乗っている。
黎にしか見えない為、時折学校まで付いてくる。今もこうやって、何も言わずにニコニコと黎たちを見て笑っているだけ。だが、黎にしか見えないからと言って、学校まで付いてくるのは辞めて欲しい。親同伴の登校なんて、恥ずかしくて仕方ない。
親と言っているが、まだ納得出来てはいなかった。いきなり降って湧いた母親。生まれてから今まで、黎は施設に居た。親の顔なんて見たことない。親は居ないものと割り切って生きてきたのに、いきなり私がお母さんです。なんて言われても、はいそうですか。なんてなる訳がない。その為、姑獲鳥との生活はまだぎこちないものだった。
そんなことを黎が考えているなんて、姑獲鳥はこれっぽっちも気づいていなかった。ただただ、愛しい我が子を傍で見ていたい一心である。その為、産まれたばかりの雛が母鳥を求めるかのように付いて回って居るのだった。
「黎、ここどうすんだっけ?」
「そこは、さっき教えた公式に当て嵌めて解けば良いよ」
「あぁ、なるほど。サンキュ」
「姑山、この漢文どう読むんだ?上手く読めないんだが」
「それ、一、二点間違えてるんじゃ…いや、全部違うじゃん、逆に天才か?」
「普通に書けよ普通に、こちとら日本人だぞ」
「お前、日本語も怪しいじゃん」
時折笑い声が響きながら、楽しそうにしている黎を見て、姑獲鳥も嬉しくなる。
ずっと会いたかった。愛しい我が子。生まれ変わってまで逢いに来てくれて、嬉しい。もう二度と、離さない。
そんなことを思いながら黎を見つめていると、黎が勢いよくこちらを見た。
「姑山くん、どぉしたぁ?」
「なんかいたか?」
「…いや、なんでもない」
姑獲鳥はそんな黎を見て、首を傾げる。口には出さなかったはず。それなのに警戒したように見てきたので、心を読まれたのかと思い少し焦る。そのままジッと観察するがこちらを見る気配はない。考えても分からないため、後であの優しい狐と神様に相談に行こうと思った。
「姑山、この英文合ってる?」
「あ、僕のも見てほしい」
「いいよ、見せて」
黎は背筋がゾワゾワする感覚があり、人目につくにも関わらず、勢いよく姑獲鳥の方を見たことを反省していた。幸いなことに、この友人たちは黎の奇行も慣れたもので、特に追求してきたりはしない。学校でも外でも、突然立ち止まったり、どこか一点を見つめていたりする。初めの方はなんだろう?と首を傾げていた彼らだが、次第に何かあったのかとスルーするようになった。念の為、声掛けはするが、黎が何も言わないなら気にせず、頼ってきたら全力で答えてやろうと常々思っているのだった。
見られるのには慣れていた。人の好奇な目であったり、同情や哀れみの目であったり様々な目で見られてきた。それは人以外からも。姑獲鳥からも、時折おかしな目で見られているのには気付いていた。優しい愛情のある目とは違う。なんかこう、ドロドロと恐ろしい目で見てくるのだった。
(ミサキちゃんに、相談しに行こ…)
一緒にいる神様は少し怖いが、そこまで邪険にはされないし、来ても良いと言ってくれた。出来れば早めに行きたいものだが、テストが終わってからの方が良いだろうと思い、改めてテストに向けて気合いを入れ直した。




