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32.運命の始まり

その夜、ミサキとウカはいつものようにくっつきながら寛いでいた。式神たちはとっくに休んでいる為、2人きりの空間だった。


「なんか、とても濃い1日でした」


 改めて、今回の件について振り返ると本当に色々なことがあった。沢山の縁が出来たし、色々な経験をした。怖いこともあった、楽しいこともあった、そして悲しいこともあった。


「黎くん、大丈夫なのでしょうか?」


「さてな、姑獲鳥も悪いようにはせんだろ」


「だといいんですけど…」


 姿を隠したウカたちを見える、特殊な目を持った人の子、黎との縁も出来た。まさか姑獲鳥の子供(生まれ変わり?)だったのは本当に驚きの事実だった。確かかどうかは定かで無い。それを確かめる術はミサキたちには持っていないからだ。だが、姑獲鳥があそこまで嬉しそうにしていたのを見て、良かったと思ったのは紛れもない事実。あの悲しい過去をミサキは知っているから、余計にそう思ってしまった。

 けれど、懸念すべき点はある。黎がこれから先、危ないことに巻き込まれないかどうか。視えると言っても、ただそれだけ。身を守る術もないか弱い人の子であることには変わりない。


「平和に暮らして欲しいものです」


「……我は、お前が心配だ」


 本気で隠してしまおうか


 冗談などではない声色に、目を丸くしてパチパチと瞬きをするミサキだが、やがて口元を手で隠しながら、クスクスと可笑しそうに笑い始める。その様子にムッとするウカ。


「すみません。でも、ウカ様はそんな事なさらないでしょ?」


 確信めいた言葉に今度はウカが目を丸くする。


「だって、そんなことをしてしまったら"つまらない"」


 そうでしょ?


 と得意気な顔をして笑うミサキに、なんとも言えない感情が湧き上がる。言葉が見つからないため、黙って抱きしめるとまたクスクスと笑いながら抱きしめ返してくる。それが愛おしくてたまらない。

 

 ウカは、思う。先程の言葉が本気だと言ったらこの子はどんな反応をするのだろうか、と……

 驚くだろうか?怪訝な顔をするだろうか?困ったように笑いながらも受け入れるだろうか?それとも…ウカを拒絶するだろうか?

 どんな反応であれ、離す気は一切無い。あの雪の日に約束したのだから。

 だが、ミサキの言葉通りで今は隠す気はない。楽しそうに自由に笑っているミサキを愛しているから。隠してしまったら、そんな一面を見ることは叶わなくなる。それは確かに『つまらない』。その言葉を繰り返しながら、ウカは優しく微笑んだ。


「そういえば、何でも言う事を聞いてくれるのだったな?」


「……え?」


「約束はしていないが、言ったであろう?」


 さて、何をしてもらおうか


 楽しそうなウカに、慌てるミサキ。すっかり忘れていた。


「で、出来る範囲で!出来る範囲でお願いします!」


「何でもと言ったではないか」


 珍しく声を出して笑っているウカに、これは諦めるしか無さそうだと悟ったミサキは、言われるお願いをただ待つだけだった。



 春は別れと出会いの季節。

 繋がれた縁は良縁か悪縁か…そんなことは神すらも分からない。

 出会いは偶然が必然か…どちらだとしても、それは運命だったのだろう。

 1年が始まった。この1年の結末は神すらも分からない。

 偶然と必然が入り交じり、良縁と悪縁が絡み合う。

 全てがそうなる運命だったとしても、その日その日を大切に、日常を歩んでいくだけである。

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