30.桜
桜咲き乱れる屋敷に、2人の女性が話している。
足元には、手のひらに乗るほど小さな子供たちが、鈴の音に似た声を出しながら駆け回っている。
「ウカには、バレてしまいましたね」
「私たちが訪問した時からバレていたと思うわ」
「相変わらず、恐ろしい御方」
クスクスとそれはそれは、とても楽しそうに笑っている。まるで新しいおもちゃを与えられた子供のような無邪気な笑顔。
「姫様方、あの願いは取り消してもよろしいですか?」
楽しそうに笑っている足元から、真っ白な子供が声をかける。他の子供たちよりは少し背が高いその子は、無表情のまま彼女たちを見つめている。
「えぇ、でもゆっくりね」
「ゆっくり、何事も無かったかのように消してくださいな」
「はい、かしこまりました」
礼儀正しく礼をしてから、他の子供たちに紛れるように駆けていく。その様子をまた楽しそうに笑っている。
「それにしても、あの愛しい子は本当に不思議な子ね」
「とても聡明。それでいて冷静で心優しい子でしたね」
「ウカが気に入るのもわかる気がするわ」
「ただの眷属にしておくなんて、勿体ない。ウカが手放すなら私が引き取りたいくらいです。きっと、お姉さま方も許してくださりますし」
「あら、ずるいわ。私の神域でずっと遊ばせておくのも良いと思うの」
ほんの少しの時間だが、神域に引きずり込めた。ウカから攫うなんて本来なら難しいが、彼女にとっては造作もないこと。桜が人を攫うのは昔から当たり前なのだから。
だが、結局は彼女が助け出した。完全な自作自演である。
「何も知らず、私に助けを求めるなんて、可愛らしい子」
「やり過ぎれば、ウカの怒りを買いますよ」
「わかってるわ。だから、また来年」
桜の季節はとても短い。ほんの一時、美しい姿を見せて人々を喜ばせる。その喜びの中に恐ろしいことがあるなんて知らずに、ただ純粋に桜を見つめる。
「それに、あの人の子も随分不思議な力を持っていたわね」
「まさか、姑獲鳥の子だなんて予想外でした」
「あの愛しい子への祝福があんな風に作用するなんて」
全ては彼女たちの手のひらの上で踊らされていた今回の事件。だが、一つ誤算だったのは黎とミサキが出会ったこと。黎については、彼女たちも知らなかった。
本来であれば、夢渡りの後直ぐにあの廃病院に行くはずだったのだが、黎に出会ったことでズレが生じた。そのズレは今回は問題なかったのだが、時間が経つにつれて、大きくなる可能性がある。
「これからどうなるのかしら?」
彼女たちにとって、そのズレすらも娯楽のひとつ。ミサキたちがこの後どう対処するのかを見るのが今からとても楽しみで仕方ない。
彼女たち、佐保姫と木花咲耶姫は未来予知など出来ない。多少、言葉巧みに操ることは出来るがただそれだけ。気付かれて、歩かせているはずのレールから外れてしまえば後はどうなるかなんて分からない。
それが良いのである。
人の子と関わった彼、彼女らがこの後どんな運命を辿るのかそれを見守るのが……
桜はどこにでもある。何時でも見ていられる。
「とても素敵な春だったわ」
桜の花びらが風で舞う。来年の春へ向けて、散ってゆく。




