29.手のひらの上
「お待ちください、ミサキ様。それならば、今回の姑獲鳥の件は無関係となるのですか?」
「多分、無関係です。偶然が偶然を呼んで、こうなった?かな…」
そんなこと滅多にないが、起きたものはしょうがない。偶然でも必然でも、これが運命だったのだから。
と、割り切れたら良かったのだが、それはそれで難しい。
「もしかして、姑獲鳥の家に縁が繋がったのも偶然でしょうか?」
「それは、どうなんですか?ウカ様」
「我が知るわけなかろう」
「知ってると思います」
「……ミサキ、お主の指輪のせいだ」
ウカに言われて、小指に着けている女神たちから貰った指輪を見た。
「佐保姫は、縁結びの女神でもある。そこまで言えば分かるであろう?」
「縁結び…え、もしかしてですが、ウカ様の縁結びの時、佐保姫様の力も指輪から伝わり結ばれた…と?」
「本来であれば、あの時縁は結ばれなかった。忘れたか?その指輪を貰った時言われていただろう」
『素敵な出会いがあるように』
「あっただろう?素敵な出会いが」
その言葉に頭を抱えた。この1連の事件は全て女神たちの手のひらの上だったようだ。
わざわざ春の挨拶と称して、ミサキに会いに来て祝福を授けた。ウカが縁を結ぶ時、ミサキを使うことを見越して。
そして、天狗の親子が会いに来ることも知っていたのだろう。タイミングがとてもピッタリだったので。古民家に臍の緒を置いたのもわざと。ミサキの性格上見て見ぬふりは出来ないし、夢渡りが出来ることも知っていた。実際初めてだったが、佐保姫様の補佐がおかげで無事に渡ることが出来た。
黎のところに出たのも、神域に引きずり込まれたのも、その後姑獲鳥と黎が出会ったのも、全部全部女神様たちせい……
「これは、遊びだったのでしょうか?」
「知らん。あの者たちは気まぐれだからな」
「そんな言葉でまとめないでくださいぃ…」
ウカは何処で気づいたのだろうか?多分、縁結びの時には既に全て分かって居たのでは無いだろうか。それでも、聞かれないから黙っているなんてタチが悪い。
ミサキは困惑したまま口を閉ざしている紅と朱に向き直り、深々と頭を下げる。
「女神様たちが、失礼しました」
「ミサキ様!?」
「頭を上げてください。元はと言えば、父が盛大な勘違いをしたせいです。こちらこそ、申し訳ありませんでした」
紅と朱も深々と頭を下げる。
お互い、いやいや、こちらこそ、などと言い合いながら謝罪合戦していたが、やがて3人で笑いあっていた。
そんな様子を遠くから黎は見つめていた。完全に部外者な為、部屋の端の方に座り直して会話を聞くだけ。半分くらいしか意味は分からなかったが、なにか大変なことがあったのだろう。百面相しているミサキを見て、少し笑いそうになっていた。
そして、隣でニコニコと笑っている女性。姑獲鳥を見てまた困惑する。黎を愛しい子と呼び、自分のことをお母さんだと自称している。どうしたら良いものかと、考えあぐねていたがそろそろ思考を放棄しそうだった。
だが、優しい手で頭を撫でられると何故か分からないがとても懐かしい気持ちになってくる。ミサキに撫でられた時も同じような感覚に陥ったのを思い出した。
(昔、本当に昔に撫でられたような気がする)
だが、そんなことあるわけない為どうしていいか分からなかった。
「黎くん!」
ボーッとしていると、ミサキに名前を呼ばれ慌てて返事をする。
「どうしたの?」
「良ければ黎くんも夕餉を食べていきませんか?」
「ゆうげ?」
「あ、お夕飯?晩御飯?のことです」
「いいの?迷惑じゃ…」
思ってもみない提案に嬉しさよりも、申し訳なさが勝ってしまう。そんな黎の考えを跳ね除けるようにミサキはとびっきりの笑顔で黎を誘う。
「そんな、迷惑なんて!みんなで食べれば美味しいですし、せっかく来て頂いたので是非!」
もちろん、姑獲鳥さんも!と姑獲鳥の手を取り誘うと、照れたように笑いながら頷いていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい!すぐ準備しちゃうので待っててくださいね!」
ミサキは全員に聞こえるように声をかけてから、早足に部屋を出て行った。
やばい空間に取り残されてしまい、更に小さく恐縮する。
(ここに置いていかないで欲しかった…)
心の中でミサキに助けを求めるが、残念ながら届かない。ミサキがご飯を作って戻るまでここでどうすれば良いのか考えるのだった。




