28.勘違い
これにて、この事件は終わり…
なのだが、ミサキは気になることがあり、ウカに尋ねる。
「ウカ様、あの子供たちはどうなるのでしょうか?」
「どう、とは?」
「一生、あの神域で暮らすのでしょうか?」
「幸せそうであったのだろう?ならば何の心配も要らんと思うが」
確かにそうだ。ミサキが見た子供たちは皆一様に幸せそうだった。悲しみも苦しみもない世界。神域の中に流れる時間はとてもゆっくりなものになっている。現世で1時間経ったとしても、神域では5分程にしかなっていない。永遠を生きられる。
だが、あの子は気づいていたのでは無いだろうか?
「…1人、気づいていたような子が居ました」
「気づいていた、とは何にですか?」
「多分、現実じゃないことに」
ミサキに声をかけてくれて、手を引いてくれたあの子。顔も声も思い出せないが、『捕まらないように』と教えてくれた言葉は残っている。なんでこんなことを教えてくれたのかは、まだわかっていない。でも、あの子は幸せでは無かったのでは、無いだろうか。そんな風に思えてしまう。
「人の子の幸せを神が、妖が、他人が決めてはいけませんよね」
「だが、不幸だとも決めてはいけないだろう」
「はい、ままならないものですね」
悲しそうな声色で、俯くミサキの頭をウカは優しく撫でた。
ここから先、どんなことを感じたとしても思ったとしても、これ以上ウカたちは干渉出来ない。あちらは女神たちの領域であり、女神たちが決めたことに他者が口を出す権利は何処にもない。
存外、神というものは気まぐれである。気が済むまで遊び、愛し、罰する。そして、興味がなくなったら途端に捨てる。捨てたものに執着はしない。2度と興味を持つこともないだろう。神域に匿っている子供たちも、興味が失せるか、気が済んだら開放されるだろう。その時、現世がどれだけ時が経っているかはわかったものでは無いが。
そんなことを考えていても、ウカは口には出さない。出せばどういう反応をされるかなど、目に見えている。
「では、あたしたちの相談もこれにて解決、となりますね」
「解決した感はあまりないですけれど」
「うむ、多大なるご尽力を賜り、深謝いたします」
「二度と面倒事に巻き込むでない」
和やかに(?)会話するのを聞きながら、首を傾げる。姑獲鳥に攫われた子供たちは皆、傷ついた子供たちだった。確かに世間体を考えれば捜索願なども出されるだろうが、子供たちに対し酷い扱いをしていたのであれば、神頼みまでするのだろうか?そして、天狗のせいなどにするのだろうか?
人の子の考えなど、ミサキには全くわからないためただの疑問でしかない。だが、ずっと考えていたことだった。
「あの、紅燕様。一つお聞きしてもよろしいですか?」
「何なりと」
「ありがとうございます!あの、天狗が子供を攫ったって何時、何処で聞いたんですか?」
「……お耳に入れておらなんだか」
「聞いていませんでしたね」
紅燕は、ミサキの問いかけに目をパチパチと瞬きさせ、一瞬の思考の眉を八の字にして独り言のように呟いた。それを聞いたミサキも困ったように笑いながら返すと、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「これは、とんだ粗忽をいたしました」
「いえ!全然、私も聞かなかったので」
「五十じあまりの昔、医を業とする場所にて聞き及んだことでございます」
「ん?五十じ…だと、50年前?……50年前!?」
驚きのあまり声が大きくなり、部屋の端の方に居た黎たちもこちらを振り向く。
「左様」
「いや、あの、50年前は最近じゃないです」
ここにも居たか、と言いたげな表情のミサキに紅燕は首を傾げる。
「五十じの歳月も、瞬く間にこそ」
「そうだけど、そうじゃない!!」
ダンッ、と音を鳴らしながら机に手をつく。ウカもそうだが、何故こうも時間の流れに対し無頓着なのだろうか?と疑問と怒りが同時に湧いてくる。50年も前の子なら、見つかるはずもない。
「思えば、かの廃れたる療養所に似通うておりました」
「もっと早く知りたかった…」
とうとう、顔を覆うように項垂れてしまったミサキを見て、紅と朱が一生懸命慰める。
「ウカ様、答え合わせしてください」
「何の話だ?」
「とぼけなくていいですから!紅燕様の聞いた天狗が子供を攫ったというのは病院。しかもあの廃病院!なら、天狗が子供を攫ったと言ったのは、子供を助けることが出来なかった時に言われた言葉じゃないんですか?」
「50…は、人の子にとっては昔だったか。そうであろうな、その頃は天狗の話も多く出ていたであろうから」
「なら、完全に勘違いじゃん!」
またしても、机をバンバン叩くミサキに困惑する紅と朱。どうやら、父の勘違いで盛大に振り回してしまったことだけは理解出来たため、なんとも言えない顔で紅燕を見ていた。
当の本人は、まだ理解出来ていないようだが……




