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27.母子

ところ変わって、ここはウカの屋敷。

 あの後、黎の混入により異界に穴が空いた。そこから全員出られたは良いものの、収集がつかなくなってしまったため、ウカが屋敷に送り込んだ。

 黎は大きな屋敷に困惑と緊張して、ちいさく縮こまりながら座っている。その隣にはニコニコ笑顔の姑獲鳥。正面には困惑顔のミサキと我関せずに式神が入れてくれたお茶を飲むウカ。天狗たちは少し離れたところに、親子揃って難しい顔をして座っている。


 さて、何から聞くべきか。黎がどうしてあの場所に訪れたのかも分からないし、姑獲鳥が黎を『私の子供』と言っているのも分からない。ウカならば大体わかっているのだろうが、話す気は無いようだ。

 諦めたミサキは、1つずつ状況を整理していこうと口を開いた。


「えっと、まず黎くんはなんであの場所に来たんですか?」


「それが、俺にもよく分かってなくて…」


 困ったような笑顔を浮かべながら話してくれた内容は、頭を抱えてしまうものであった。



 黎は帰路に着いていた。先程まで話していた小さな女の子と後ろの怖い人(?)たちを思い出しながら、不思議な体験をしたなと、ぼんやり思いながらゆっくりとした歩みで施設に帰っていた。

 数分歩いていたが、違和感を覚え立ち止まる。


 (ここ、さっきも通ったような?)


 似たような作りをしている住宅街を通っているため、あまり疑問に思わなかったが、この道はさっきと同じ道ではないだろうか?と辺りを見渡した。目印になりそうなものは無く、気のせいかと思いまた歩き出す。だが、また数分歩いても同じような景色。なかなか住宅街から抜け出せなかった。

 半年に1度あるかないかの体験のため、少し慌てたが深く深呼吸をして心を落ち着かせる。目を閉じて何度か深呼吸をしていると、サーッと風の音が聞こえる。鈴のような声のような音も聞こえる。黎が目を開けると、先程までいた住宅街ではなく、眼前に広がっていたのは満開に咲いた桜並木。思わず圧倒されてしまった。

 黎の足元には手のひらに乗るほどの小さな子供が駆け回っている。髪色が白だったり、ピンクだったり、緑、青、赤、茶色、黒…ととても色とりどりで、まるで花が咲いているかのようだった。


「え、ここ、どこ?」


「ここは(わたくし)の神域ですの」


 思わずこぼれた言葉に返事があり、慌てて声の方へ振り返る。そこに居たのは、美しいピンクの髪に宝石のように輝く瞳を持った咲耶姫であった。

 あまりの美しさに黎はパチパチと瞬きをしてしまう。そんな様子に優しく微笑む咲耶姫。


「貴方におねがいがあります。聞いてくださる?」


 こういう時、人ではないものの声をあまり聞いてはいけない。ましてやお願いだなんて、何があるかわかったものではない。だが断ることも難しく、答えられずにいた。


「そんな難しいお顔をせずとも、ただ行って欲しいだけよ。愛しい子達をお迎えに」


「……愛しい子?」


「貴方も会ったでしょう?」


 なんのことか分からず首を傾げると、咲耶姫はクスクスと笑う。


「それで、頼まれてくれるかしら?」


「……お願いと言いつつ、強制では?」


「あら、お願いよ。貴方は貴方の意思で行くんだもの」


 このまま何を言っても意味が無さそうだと感じ取っ黎は、小さく頷いた。


「ありがとう!とっても助かるわ」


 その言葉の直後、足元が崩れて黎は下に落ちていった。

 そして、落ちた場所はあの古民家の前だったと言う。


 

「落ちるって怖いね…」


 遠い目をしながら話す黎に居た堪れない気持ちになった。


「女神様が大変失礼なことを…本当に申し訳なく…」


 頭を下げるミサキを見て、黎が慌てたように頭を上げるように言う。


「そんな!全然、いや怖かったけど、最終的に決めたのは俺だし…

 それに、ミサキちゃんに会えたからよかった」


「黎くん…ありがとう!」


 2人で笑い合うのを見て、姑獲鳥はますます笑顔に、ウカは少し不機嫌そうな顔をしていた。


「それで?そこの者がお前の母親だと言っているが本当か?」


「え、いや、知らない…そもそも、俺、母親なんて居ないし」


「そうなんですか?」


「物心ついた時から施設にいたから本当に知らないよ」


 というか、誰?と姑獲鳥を見る黎。思ったよりも複雑な事情を持っているようにすに全員が口を噤んでしまった。


「ワタシノ、イトシイコ」


「ワタシ、オカアサン」


「アイタカッタ」


 優しく頭を撫でる姑獲鳥に困惑するが、次第にされるがままになっていた。

 そんな様子を微笑ましく見ながら、ミサキは小さな声でウカに尋ねる。


「どういうことなのでしょうか?」


「知らん」


「えー?そんな事言わないでください」


 ウカは本当に興味がないようで、答えてくれない。下から覗き込むようにウカを見上げて上目遣いでお願いしても頭を撫でるだけ。もう!と頬を膨らませて怒っているが、プスリと膨らんだ頬を潰された。


「あの、亡くなった子とあの人間の子は魂が同じなのではないでしょうか?」


「魂ですか?」


「わたしたちは、魂の色や形で他人を判別することが多いですよね?多分、それと同じなんじゃないかなって」


「ふむ、一理あるな」


 知ってたくせにと悪態をつくが、ミサキも納得した。確かに神も妖も、命あるもの全てとは言わないが魂で判別する。美味しそうなもの美味しくなさそうなもの、上等かどうか、使えるか使えないか、理由は様々だ。

 姑獲鳥は自分の子供の魂と同じ、又はそれに近しい魂を黎で感じ取ったのだろう。それが本当に姑獲鳥の子かは置いておいて…


「厄介なものに好かれたな…」


 黎と姑獲鳥の方を見ながらボソリと呟かれたウカの言葉に、ミサキたちは小さく頷いた。

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