24.かくれんぼ
青空の下、立っていた。
遠くから缶けりをする声、鬼ごっこをする声、かくれんぼをする声、だるまさんがころんだをする声、たくさんの子供たちが遊んでいた。
「――ちゃん、あそぼ!」
その子は太陽の光が反射してキラキラ輝く白い髪の女の子に声をかける。名前を呼ばれた気がしたが、上手く聞き取れない。手を引き他の子たちの元へ2人で駆ていく。
「――ちゃん!なにしてあそぶ?」
「おにごっこする?」
「えー?かくれんぼがいい!」
「わたしもかくれんぼがいい!」
「――ちゃんは?なにしたい?」
「え、わ、私は……」
足元がふわふわしている。名前を呼ばれたはずなのに、その名前を認識できない。果たして本当に『私』が呼ばれたのだろうか?だが、全員の目が『私』に向いている。真っ黒な瞳が『私』を見てる。
「か、かくれんぼが、いいです…」
「わかった!」
「じゃあ、かくれんぼしよ!」
「おにはだれがいいかな?」
「はーい!ぼくがやる!」
「じゃあ、かくれよ!」
「かぞえるよー!」
鬼の子が、1からゆっくり数えていく。子供たちは蜘蛛の子を散らすように隠れていく。
手を引いて連れてきてくれた子が、『私』の後ろから声をかける。
「――ちゃん、つかまらないようにね」
「…え?」
振り返った時にはもう居なかった。鬼の子が10数え終わり、もーいいかい?と声をかける。『私』は慌てて、まーだだよ!と言い、隠れる場所を探す。あんなに沢山の子供たちが居たのにとても隠れるのが上手いのか、気配1つ感じられない。
『私』は大きな桜の木によじ登り、枝に座った。結構高いところまで登ったようで、下の方が上手く見えなかった。これなら下からも見えないだろうと思い、やっと一息つけた。
ここはどこ?私は、いったい?
自分の名前が思い出せない。それどころか先程まで何をしていたのかさえも思い出せなくて、それがとても恐ろしかった。大事な人を忘れている…大切で大好きで、『私』のすべて…
もーいいかーい!
鬼の子の声が聞こえる。もーいいよと至る所から聞こえてくる。『私』も小さな声でもーいいよと言うが、聞こえてはいないだろう。
木に身を委ね、目を瞑る。耳に集中して周りの音をよく聞くと、既に何人か捕まってしまったらしい。
みーつけた!
はやいよー!
みつかっちゃったー!
そんな声が聞こえてくる。そういえば、子供たちは何人いただろうか?両の手よりも多かったような気もするし、少なかった気もする。どんな顔をしていただろうか?鬼の子は、誰だったのだろうか?
次々と浮かんでくる疑問、だがその疑問に明確な答えを出すことが出来ない。
――ちゃんがいない
どこかくれたのー?
――ちゃーん?
『私』を呼ぶ声が聞こえる。思わず返事をして姿を現してしまおうとしたが、先程言われたことを思い出し、口に手を当ててその場に留まる。
『つかまらないように』
そう言われたのだった。捕まったらどうなるのだろうか?このまま逃げ切ったら良いのか?だが、いつまで?いつがこのかくれんぼの終わりなのだろうか?
終わりが分からないもの程、怖いものはない。今だけは、そう思った。そして、はたと気づく。
「捕まったら、終わりじゃないの?」
鬼に捕まる=ゲームの終わり
ならば、捕まらない限り終わることが出来ない。出来ないが、捕まってもいけない。その事実に驚きと恐怖が襲う。
「これ、永遠に終わらないやつだ…」
小さな声で呟いた言葉に、自分でダメージを追う。
どこいったのー?
はやくさがそー!
こっちにいるかなー?
ねー!このきは?
『私』がいる木の下から声が聞こえた。枝や木の葉が邪魔をして下が見えないが、声からして何人かが集まっているようだ。
出来る限り身を小さくする。登れるとは思わない。だが念の為、見つからないように呼吸も最小限に留める。心臓の音がバクバクとうるさい。外に聞こえてしまうのではないかという程、大きく鳴っている。
これ、のぼれる?
のぼってみる?
えー?たかいよ?
じゃあ、たおしてみよー!
え?と声が漏れそうになるが手で塞ぐ。それと同時にドンッと大きな衝撃があった。
何度も何度も、ドンッ、ドンッ…と、大きな音がする。子供が出せるような音じゃない。まるで、あの人が壁を壊した時みたいな…『私』の脳裏に赤がチラついては消えていった。今のは、なんだったのだろうか?
そんなことを考えている暇は無い。徐々に傾いていく木にしがみつくように腕を伸ばし、ぎゅっと抱きしめる。このままでは木が折れてしまう。あの方々が愛している桜の木が…
キラリと小指に付けられた指輪が光る。こんなもの付けていたっけ?と首を傾げる。だが、懐かしくて優しい気配がする。とても素敵な呪い。桜の花びらが記憶の中で舞っている。
抱きしめていた腕を離し、祈るように胸の前で手を組む。
「た…け…」
恐怖で歯はカチカチと鳴っている。声が詰まって、上手く言葉を紡げない。
「たすけて…」
目には涙が溜まっていく。世界が溺れていき、呼吸すらもままならない。
「助けてください!女神様!」
頬に涙が伝う。1粒の涙は落ちて、ポチャンと指輪に落ちた。
泣かないで、愛しい子
大丈夫、貴女の神様の元にちゃんと送り届けます
緑の木の葉だった木がピンク色の満開の桜に変わる。下からは戸惑ったような声が聞こえてくる。だが、それよりも…
「――!」
声が聞こえる。大好きな声、『私』が好きな神様の声。
「――キ!」
名前を呼んでる。『私』の名前を。
あの人がつけてくれた、大切な名前を。
「ウカ…様…」
「ミサキ!」
「ウカ様!」
早く行ってあげて…
背中が押された。その声はとても優しい声だった。




