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25.返して

伸ばされる手を取ることは叶わなかった。

 ウカは呆然とその場に立ち尽くしていた。紅燕たちも驚き目を見開いたまま、今起きた出来事を理解出来ないでいた。病室には子供の笑い声がこだましている。まるでウカたちを嘲笑うかのように…


「騒々しい…」


 小さく一言告げ、軽く袖を払う。ただそれだけで、この病室の空気が変わった。先程まで聞こえていた子供の声も聞こえない。ただ静寂だけが流れる。


 (これ程までの力があるなんて…)


 この神がその気になれば、この空間を全て浄化し無かったことに出来るのでは無いか、と考えたがすぐに頭を振りその考えを打ち消す。そんなことをすればこの辺一帯がどうなるかなんて分かったものでは無い。それに、ミサキが捕らわれてしまった為下手な行動は出来なかった。


「進むぞ」


 これからどうするかを問いかけようとしたが、それよりも早く、進むという決断をするウカ。それに対し、紅燕たち驚きの表情を見せた。


「で、ですが、ミサキ様が!」


「ミサキ様は、どうなるのですか!」


「ミサキなら大事無い」


 紅と朱の心配など他所に、ウカは紅燕に壁を壊すように命じる。紅燕はほんの数秒戸惑いを見せたが、ひとつ頷くと先程と同じように壁を破壊した。


 (何故、こんなにも冷静なのでしょう?)


 表情の変わらないウカを見て、寒気を感じた。



 実際、ウカはとても冷静を欠いていた。腕の中に大事に大事にしまい込んでいたにも関わらず、目の前で堂々と攫われたのだ。冷静でなんて居られない。腹の底から怒りが湧き出ている。少しでも気を抜けばここら一帯を完全に浄化し、更地にしそうだが、残っている理性で押し留めている状態だった。


 (最悪の場合、あの女神たちが何とかしてくれるだろう)


 癪ではあるが、あの気まぐれな女神たちを信じていた。ミサキに贈ったあの祝福。もしかしたら、この状況が見えていたのかもしれない。先見の明を持っていたかどうかは覚えていないが…


 紅燕が壊し進んでいくと、ある一室に辿り着いた。先程までいた病室でも無い、もはや病院の中ではない別のどこかに。

 慌てて後ろを確認するが、あるはずの壁などどこにもなく、どこか見覚えのある襖があった。


「ここって、もしかしてあの古民家でしょうか?」


「何故ここに繋がっているのですか?」


 ワ……わタシ……


 コド……モ


 現世で見たあの古民家よりも綺麗な部屋、庭には桜の木が美しい花をつけてそびえ立っている。


「あんな木、ありましたか?」


「確か、掘り起こされていた場所ではありませんか?」


 紅と朱は、紅燕から離れないようにしながら部屋の中を見て回っていた。


 ワタ……シの…


 コドモ……エ……


 ウカはゆっくり、桜の木に近づくと手をかざす。


「ミサキ」


 縁を結ぶように、辿るように言葉を紡ぐ。

 あの女神たちに届くように、願う。


「ミサキ!」


 縁結びをした時のように光が舞う。

 次は手が届くように、2度と離さぬように。


「ミサキ!」


 大きな風が吹くと桜の花びらがウカのまわりを舞う。光と合わせてまるで踊っているかのように。

 紅燕たちは、この美しい光景に目を奪われていた。


「……カ…様」


 目を開き手を伸ばす。


「ミサキ!」


「ウカ様!」


 桜の木からミサキが落ちてくる。抱き込むように受け止める。

 いつの間にか桜の花びらも光も消えていた。


「無事で何よりだ」


「はい!ウカ様!」


「「ミサキ様!」」


 紅と朱もミサキの元へ駆け寄る。怪我が無いかをクルクル回りながら確認して、ほっと一息ついた。


「無事の帰還、何よりに存じます」


「心配かけてごめんなさい。ありがとうございます!」


 ワタシ…の…


 コド…モ……カエシ……テ……カエシテ!!


「先程から騒がしい、お主のでは無い。去ね」


 喜びに浸る暇もなく、どこからが聞こえる声に、ウカは鋭い声を発する。

 すると、段々と空が赤く、太陽は黒く染まっていく。嫌な気配が立ち込め、身体が重く感じてくる。

 ウカはミサキを隠すように抱え直し、紅燕たちは結界を張る。


 カエシテ…


 カエシテ!!


 ゆっくり、悲痛な声で返してと叫びながら近づいてくるのは、身体を真っ黒な鳥の羽で覆われた、黒髪の女性。赤い瞳からは涙が流れている。


「成程、お前の仕業だったのか姑獲鳥(うぶめ)


 姑獲鳥と呼ばれた女性は、一際大きく返してと泣いていた……

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