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22.異界

微ホラー注意

扉を開けた後、ウカと紅燕の行動はとても早かった。ウカはミサキを、紅燕は紅と朱を抱き込んでこの部屋の惨状から目を背けさせる。この時ばかりは、紅と朱も大人しく紅燕の胸に抱かれていた。ミサキは、両目をぎゅっと瞑り、ウカに抱きついているが、今見た部屋が脳裏に焼き付いて離れない。


「これは一体…」


 紅燕の呟きを聞きながら、ウカは手術室の入口から見渡す。部屋の真ん中に鎮座している手術台から溢れ出ている液体は床を濡らしている。だが、不思議なことに扉を開けてもその液体は廊下へ漏れ出ることはない。簡易的な結界が張られているのか、それとも別の要因かは分からないが、中に入るのは危ないだろうという結論を出し、ウカたちはその場を後にした。


 入口に戻ってきたウカたちだったが、先程の光景が忘れられないため、ミサキと紅、朱はまだピトリと張り付いたままだった。

 滅多に無い子供たちのデレに不謹慎ながらも嬉しそうな顔をする紅燕。それを呆れた目で見ながら、ミサキの頭を優しく撫でた。


「ミサキ、大事無いか?」


「うん…」


「どちらだ?」


 か細い声で首を振りながら肯定するミサキに、首を傾げてしまう。だが、泣き出してはいないため、まだ平気だろうと結論付けた。


「ミサキ、次は?」


「…まだ行くんですか」


「止めるか?我はどちらでも構わん」


「行きますぅ…!」


 こうなったら意地と気合いで何とかしよう!と改めてウカの首にぎゅっと抱きついた。顔を伏せていたため、後ろで紅と朱がえ?という顔をしていた事をミサキは知らなかった。


「2階に上がります」


 階段の上を指す。

 階段を慎重に登りながら、2階を目指す。古くなっているが、崩れる程でないなと思いながらも、何かあってもすぐに対応できるよう、ミサキを抱え直した。


「えっと、右の1番奥だと思います」


 1階と打って変わり、2階は驚く程に荒れ果てていた。外から見た窓ガラスがあったはずの場所は割られており、壁も崩壊していた。

 病室の扉は全て空いており、中から赤子の泣き声が聞こえてくる。そっと近くの病室を覗いたが、何も居ない。それなのにも関わらず、赤子の泣き声は徐々に大きくなっている。


「いと、ゆゆしきさまなり…」


「天狗、結界を張り直せ」


「御意」


 入る時に張った目隠しの結界の上から、もう一度結界を張り直す。今のこの状況は、何者かの干渉を受けている可能性があるからだ。外観とも、1階とも違う異様な空間。何があるか分かったもんじゃないなと、1人またため息をついた。


 1階を探索した時よりも慎重に歩みを進める。1番奥の病室に着くまでそう長くはかからないはずだった。

 だが、歩いても歩いても一向に辿り着かない。時折、パタパタという足音が聞こえたり、キャハキャハ笑う子供の声が聞こえる。


「ウカ様」


「どうした?」


「あの、これ、もしかしてなんですけど…」


 言い淀むミサキ。ウカには、何が言いたいのか大体の検討はついているが、敢えて黙っていた。

 むしろ、この2階に辿り着いた時から理解していたが、(言ったあとの反応が)面倒だと思い報告をしなかった。

 流石ミサキ、ウカと長くいるだけはある。今こんな状況で無かったなら、諸手を上げて喜ぶがそんなことしてられない。


「ウカ様、この空間、異界と化してませんか!?」


「よく分かったな」


「やっぱりー!!!」


 うわーん!と泣きながらウカに縋り付くミサキを、不思議そうな顔で紅と朱は見つめていた。


「異界?」


「とは、なんなのでしょう?」


「なんだ、習っておらんのか」


「まずは、御身を全うしたまふを先とせむ」


「状況を理解出来ねば、守ることもままならんだろう」


 堂々と言う紅燕に呆れたような声で答える。


「うぅ…異界とは神域、神様の住まいと異なる異空間のことです。多くは、力を持ちすぎた妖や、暴走した怪異が作り出すことが多く…入ったらすごく危なくて怖いところです」


「…えっと、それがここ?」


「危なくて、怖いところ…」


 ミサキの説明を聞いた紅と朱は、顔を青くさせゆっくりと紅燕に近づき縋りついた。顔は伏せていたが、既に半泣きである。紅燕は役得とニッコリ顔をしていたが、空気を読めとウカに叱られた。


「どうしてこんなことに…」


 小さなつぶやきであったが、それに全員が同意した。ただの人探しが、何故こんなことになったのだろうか…

 だが、1つわかったことは、探し人は人では無かったということだろう。まぁ、50年も経っているのだから、そんなこと言われなくても分かっていた話である。

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