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15.夢

夢の中のミサキは、本来の白狐の姿になっていた。真っ白な狐。光に当たると毛の1本1本がキラキラと輝き、瞳は人間の姿の時と同じ紫色の瞳、首には赤いリボンが巻かれている。

 ミサキが居る場所は、昼間に来た古民家だった。

 辺りをキョロキョロと見渡しながら、ゆっくり中へと入っていく。昼間見た時は物がなく、ガランとした寂しい雰囲気であったが、今見ている古民家は生活感が漂っている。

 居間のテーブルには雑誌や新聞が置かれ、台所の冷蔵庫には買い物メモや、チラシが貼られている。色々なところを見ていると、和室の方から歌が聞こえてきた。優しい女性の声。聞いたことがないはずなのに、とても懐かしい曲。声に導かれるように和室へ行くと、そこには大きなお腹をした女性が歌いながら編み物をしていた。

 その顔は慈愛に満ちていて、時折お腹を撫でる時はいっそうその笑みを深くしていた。


 愛しい私の子


 早く出ておいで


 早く会いに来て


 私と一緒に遊びましょう


 優しい歌に思わず涙が溢れてしまいそうになる。

 ミサキは、そろりそろりと音も立てずに近づくが、女性からはミサキが見えていないようで、気にした様子は一切ない。


 (この人が、あの臍の緒の持ち主さん?)


 今の状況的に見ても、それしか考えられないがあの臍の緒は縁が切れているとウカが言っていた。


 (なら、この人は…)


 ミサキは前足でそっとお腹を撫でる。すると、お腹の向こうからポコポコとした感触が前足に伝わった。

 驚き、思わず後ろに飛ぶがまたそろりと近づきお腹を触る。また前足にポコポコと当たる感覚があり不思議な気持ちになった。


「あらあら、今日は元気ね、愛しい子」


 上から嬉しそうな声が聞こえ、顔を上げると女性はお腹を見つめていた。お腹を見ているはずなのに、ミサキはまるで自分が見つめられているように気分になった。

 目が合ったような気がした。

 気がしただけ、女性の目にはミサキは映っていない。でも、ほんの数秒その笑みがミサキに向けられたような気がしたのだった。


 数刻経つと、女性は夕餉の準備を始めた。大きなお腹では大変だろうに慣れた様子で食材を切ったり炒めたり…美味しそうな匂いが漂ってくる。

 1人分の食事を完成させ、テーブルで食べ始める。ミサキはその様子をじっと見つめていた。

 夜になり、女性は布団で眠りについた。頭の方で丸くなり前足を器用に折りたたんで枕にすると女性と一緒に眠りについた……ように思えた。

 

 ただ眠ったはずなのに目を開けると、先程までの光景は見る影もなくなっていた。

 空はどんより曇り空で今にも泣き出してしまいそうだった。家の中は電気もつけずに真っ暗。そして聞こえる彼女の咽び泣く声とそれに混じる悲鳴と何かが壊れる音。

 その声が恐ろしくて、怖くて悲しくて、思わず後退りをしてしまう。だが、見ないとこの夢は終わらない、何故かそんな気がした。

 ゆっくりと、彼女の居る場所に近づく。泣き声も悲鳴もどんどん大きくなっていく。耳を塞いでしまいたくなるほどの、悲しい心からの叫びに足が止まる。

 何度も止まりながら、部屋へと辿り着き中へ入る。部屋は荒れ、至る物が壊されている。襖も畳も置いてあった鏡台も、全て無惨な姿に成り果てていた。そして部屋の中央には、彼女が居た。髪はボサボサで顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。あの優しい笑みをしていた彼女はもう居ない。手や腕、足は怪我をしているがそれを気にした様子もない。

 ゆっくりと、彼女の手に前足を近ずけ触れようとした時、視線を感じ上を向き彼女の顔を目を見ると、その目は爛々と輝いていた。

 素早く後ろに飛び、威嚇するように唸る。だが、彼女の目はミサキから外れない。見ているよう…ではなく、本当にミサキを見ていた。


「私の、愛しい子」


「私、ワタ、シの」

 

「ワタ、わたしの、わたしの子供…」


 手を伸ばしながらゆっくりと近づいてくるのに合わせて、一歩づつ後ろに下がる。後ろ足が、カサリと物に当たる。それをよく見ると落ちたカレンダーで、所々破けてしまっていた。

 カレンダーに気を取られてしまったせいで、彼女に手を掴まれる。彼女の顔が近くにあり、嫌でも目と目が合ってしまう。

 彼女の目の中には、ミサキが居る。今は白狐の姿のはずなのに、人間に化けた時の姿が彼女の目の中には映っていた。


「いや!離して!」


 振りほどきたくて、腕を振ると2人してバランスを崩し畳の上に倒れ込む。逃げようと立ち上がろうとした時、ミサキは目に入ってきたものを見て思わず目を見開いた。

 1976年の、今ミサキが生きている現在より、50年前のカレンダー。


 (ここって、この夢って……)


 そこでミサキの意識は途切れた。

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