16.縁
「起きろ、おい!起きろミサキ!」
ウカの声で目を覚ます。ミサキの目には涙が浮かんでおり、目の前にいるウカがぼやけて上手く見えない。心配そうな声でミサキを呼ぶウカに答えたくて、何か言わなければならなくて、必死に声を出そうとするが、口から出るのは鳴き声だけ。いつの間にか変化も解けてしまい、白狐の姿に戻ってしまっていたようだ。
ウカは優しくミサキを抱き上げると、あやすように言ノ葉を紡ぐ。優しいウカの歌。それと同時にウカから流れ込んでくる神力に、安堵していた。
あれは夢であった。だが夢であると同時に現実でもあったのだろう。縁を辿っての夢渡り。初めての経験にミサキは戸惑ったのだった。
「落ち着いたか?」
鳴き声が小さくなったのを確認してから、ウカがミサキへ問いかける。ミサキは小さく頷くと、ポフリと音を立てながら人間へと変化する。まだ少し目が潤んでいるが涙は止まったようだった。
「ウカ様、ごめんなさい」
「何を謝ることがある」
「でも、迷惑をかけました」
「かけられた覚えは無い」
気にするなと言うように、頭を撫でると、その手に嬉しそうに擦り寄る。そんなミサキが可愛くて仕方なかった。
「それで、何を見た」
「多分だけど、臍の緒の記憶?」
ミサキは見た夢を事細かくウカに話した。途中脱線したり、話があっちこっちに飛んだりしたがウカは怒るでもなく静かに聞いてくれた。
「最後に見たのが、カレンダーで、1976年って書いてありました」
「50年前か、それほど昔ではないな」
「人間からすれば、結構昔だと思いますよ」
ウカの言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。神様単位であれば、50年前はつい最近となってしまう為、時折人間基準での訂正が必要となるのだ。
「ウカ様、お願いがあります」
ミサキはウカの目を見つめ、真剣な表情をした。そんなミサキを見て、ウカは眉間に皺を寄せ怪訝な顔をする。ミサキが何を言うか、何となく検討がついているからである。
聞かずに却下してしまうのは容易い。そもそも、臍の緒の預りも、こういう懸念があった為断ったが断りきれず、結局ミサキに怖い思いをさせてしまった。これ以上、ミサキに負担をかける訳にはいかない。
「ミサキ」
「ウカ様」
ウカの言葉に被せるようにミサキが名を呼ぶ。
「ウカ様、既に縁は結ばれました。私は彼女に呼ばれ、彼女を探さなくてはいけません。」
「だとしても、お前がやる必要はない」
「私と縁が繋がれたんです。私がやるしかないでしょ?」
「……怖いのだろう?」
ミサキの心を見透かすような目で問いかけるウカに、思わず口を噤むがあの時見た彼女の光景を、彼女の目を思い出し覚悟を決める。
「確かに怖いです。でもそれでも、臍の緒を返さないと。お母さんと離れ離れは、悲しいです」
泣きそうなくしゃりとした笑顔を見て、ウカはため息をつく。これでは、何を言っても聞かない、むしろこれ以上拒否すればミサキ1人でどうにかしてしまいそうだった。
「わかった、お前の好きにするが良い」
「ありがとうございます!ウカ様」
嬉しそうなミサキをみて、何かあれば自分が何とかすれば良いと思い、また深くため息を吐いた。




