32.神様
ミサキが黎を迎えに行った同じ頃、出雲で行われている神議りは、大嵐となっていた。
「えっと、ウカっち落ち着こうぜ?」
「流石に無理がありますわよ」
「触らぬ神に祟りなしですよ」
少名毘古那神、咲耶姫、建御雷神が必死にウカをなだめているが、ウカの表情は変わらない。実際には、少名毘古那神だけがなだめているのだが……。
ウカは式神からの連絡でまた黎が攫われたことを知った。しかも今回は、神が関わっているかもしれない。そして、その神は夏祭りの時にミサキを侮辱したという神。怒らないわけがなかった。
だが、まだ動くことができない。ミサキの方が終わらなければウカは動けない。合図が来るはずだ。それまで待たなければならず、ウカの機嫌は最高に悪かった。
「宇迦之御魂神、私たちを巻き込まないでくださいね?」
「自衛くらい出来るだろう」
吐き捨てるように言われる言葉に咲耶姫は肩をすくめる。何かあった際は建御雷神に守ってもらおうと考えていた。
そろそろ神議りが終わる。一ヶ月、なかなか進まないこの会議。何度イライラしたことだろう。三十一日に終わらないのは、さっさと帰らない神たちのため。親睦を深めろということなのだろうが、会議という会議になっていないのだから、要らないだろうとウカは思っていた。
議長の神が、会議を締める。
――その直後
神になって間もない神たち3名が燃えた。
「うわぁ!!」
「な、なんだ?」
「何があったの?」
「いきなり燃えたぞ?」
困惑の嵐。だが、ウカは冷静だった。あの炎を知っている。あれは、ミサキの狐火だった。火力の調整が下手で、練習のたびに屋敷を燃やしていたから、よく見ていた。
「……」
ウカの口元が緩む。まさかこんなことをするとは思わなかった。
「あらあら、貴方の愛し子は容赦がありませんね」
「え、これウカっちのとこの子がやってんの? やばぁ」
「ほう、良い炎ですね」
三者三様の意見。だが、三名とも楽しそうに笑っている。
神という生き物は自由だ。楽しみを見いだし、それを娯楽とする。それに生死など関係ない。楽しければそれでいい。面白ければそれで良いと考える生き物だった。
ゆっくりと燃えている神たちに近づく。近くにいた関係のない神たちはウカが近づいてきたことで事態を察し、そそくさと後方に逃げていく。だが、その顔は全員楽しげだった。
神議り中の乱闘の時のような野次は飛ばない。飛ばせば自分の首が飛ぶことを知っているから。
「お前たち、自分たちが何をやったかわかっているか?」
その声には底知れぬ圧があった。
神たちは燃えながら、恐怖を感じた。手を出してはいけない存在だった――と。
何が呑気なものか。すべてわかっていて、放置されていたのだ。それを今更ながらに思い知った。
「お、お許しください!」
「申し訳ございませぬ! 二度といたしませぬゆえ、何卒ご容赦を!」
ウカに深く、深く頭を下げる。
ウカは考える。この者たちをどうしてやろうかと。許すのは簡単だ。ウカが一言『良い』といえばそれで済む。だが、簡単に許しても面白くない。
この者たちは、人間たちを利用し、私利私欲のために動いた。神であるにもかかわらず。
「皆に問おう。この者たちが神として相応しいかどうかを」
幸いなことに、今は神たちが全員集まる神議りが終わったばかり。ならば、全員で考えれば良い話だった。
すべての神にこの者たちの行いが伝えられる。神たちは口々に答える。
何たる所業だ
こんなことに人の子を使うなんて
この者たちを神と認めてはならん
ひそひそと話す声が大きくなる。答えが出たようだ。
「今一度聞こう。この者たちが神に相応しいかどうかを!」
相応しくない!
神としての権利を剥奪するべきだ!
神格を剥奪するべきだ!
ウカは振り返り、燃えている神たちを見る。
「だそうだ。今この時をもって、お前たちの神としての権利を剥奪する」
「お、お待ちください!」
目を見開いてそう言うが、すでに決まってしまった。満場一致で――
神という生き物は残酷だ。だが、優しさも持っていた。命までは取られなかったことを、喜ぶべきだろう。




