33.人間
時間は少し遡る。
宇迦之御魂神の眷属であるミサキから要請を受け、海月 京夜は、舌打ちしたい気持ちを抑えながら、連絡された場所に早足で向かっていた。
短髪の黒髪に黒目。二振りの刀を腰に下げ、黒い制服を着た京夜は、政府所属の払い屋だった。
腰に下げているのは、打刀と脇差だった。本来なら、短刀も合わせて三振りなのだが、短刀は別の者に預けていて持っていない。
連絡された場所に到着した。まだ来ていないようでで、少しだけ安堵する。だが、京夜の表情は変わらない。
軽い結界を施し、辺りに何もないか、何も居ないかを確認して、何事もないと分かると、目を瞑り腕を組んで待っていた。
パチリと目を開ける。その瞬間、空間が揺らめき、三体の人影が見えた。無事に届いたと知らせるため、霊力で作った蝶を飛ばしておく。無事に届いていると良いのだが……
三体の影は何が起こったか分かっていないようで、キョロキョロと辺りを見渡している。
「お前たちが、噂で出来た怪異か?」
唐突に声をかける。
影たちは驚いたような動きを見せる。特に気配は消していなかったのに、なぜ驚かれたのか京夜は分からない。
「人の噂というのも、困りものだ」
妖怪や幽霊とは違い、怪異は人の噂によってその力を増していく。
例えば、口裂け女。様々な噂によって形作られた存在だ。始めがどんな噂だったのかも、今では分からないだろう。
例えば、トイレの花子さん。子供たちの間で噂になった怪異。
他にも様々な怪異がいる。その全ての元凶は、噂。
「お前たちを野放しには出来ないという判断が下された。短期間で力を付けすぎた。ここで消滅してもらうが、いいか?」
聞いてはいるが、確定事項だった。既に、刀を抜く用意はできている。
影たちが慌てるが、結界があるため逃げられない。どうすれば良いかのか分からなくなったのだろう。捨て身のように京夜を襲いに来た。
「……短期間で力をつけても、知能はそこまで育たなかったんだな」
そう言い刀を——
抜く——
一瞬だった。一瞬で、三つの影は綻び、溶けて消えていった。
「呆気ないな」
ぽつりと呟かれる。
携帯を取り出し、一番上にあるお気に入り登録されている番号を押す。数回のコール後、相手が出た。
「……終わった。いや、怪我はしてない。……嗚呼、伝えてくれ。……ありがとう、みこ」




