31.狐火
「虫けら風情が、我が敬愛なる主を愚弄するなど、万死をもってしても贖えぬ」
ウカを侮辱するこの神たちに耐えられなくなり、思わずそんな言葉を口走った。だが、事実だった。位の低い神が、位の高い神に喧嘩を売ったのだ。どうなっても文句など言えない。
ミサキは、神たちの後ろにいる三体の黒い影に向かって声をかける。
「貴方方に用はありません。残念ながら、専門外ですので」
自分の手で始末をつけられないのが悔しいのか、少し残念そうな声を出す。
「人間の始末は人間にお任せいたします」
そう言い、ミサキが縁を繋ぐ。黒い影が消える瞬間、黒い蝶が舞った。
「な、何が起こったんだ……」
「どこに消えた!?」
「貴様、何をした!」
何が起こったのかわかっていない神たちは、口々にそう言う。
「神の力を持った怪異をそのままにしておくわけにはいきません。ですが、私が手を出すわけにはいきませんので、人間側にお任せしたところです」
何事もなかったかのように、丁寧に説明する。だが、その説明の仕方が気に障ったのか、神たちは興奮したまま文句を言っていた。
この神たちは、人間の噂の力を利用して怪異を作った。だが、普通はこんな短期間で力を持つようにはならない。ならばどうしたか……ミサキが出した結論は、神たちが力を与えたということだった。何を目的としてこんなことを行ったのかは分からない。だが、間違いなく放置してはいけない存在だった。
未だに喚き散らしている神たちを冷たい瞳で見つめる。
黎と姑獲鳥の無事は確認できた。ならば、やることはもうない。償えぬなどと言ったが、ミサキには何もできない。代行者ではあるが、ミサキはただの眷属なので。
一歩前に出る。
「私が手を下したいのですが、残念ながら何もできません。今、私にできるのは、分霊であるそのお体を消すことだけです」
ミサキは後ろを振り返り、黎に頭を下げる。
「無力な私をどうかお許しください」
いつもと違う謝り方に、黎は慌てて首を横に振る。
その様子をミサキは嬉しそうに微笑んだ。
神たちの方を向き直り、狐火を放つ。本体は出雲にいるため、容赦はしない。
空間が揺らぎ始める。もう、この神域は長くないらしい。
「黎くん、姑獲鳥さん、帰りましょうか」
ふわりとした笑みを二人に向ける。その顔に怒りはもう無かった。
神たちに少し同情する。このことはウカに伝えてしまっているので、どのような対応をするのかはわからない。だが、それをミサキが気にする必要はない。
屋敷に縁を繋ぎ、二人とともに帰る。屋敷では式神たちや屋蜘蛛が待っている。




