30.神の眷属
黎は目の前の光景に釘付けになっていた。
姑獲鳥と共に攫われ、よく分からない空間に連れてこられていた。以前、咲耶姫に神隠しされた時とは全く違う。全体的に暗くて、神域と呼んでいいのか躊躇してしまうような空間だった。
よく分からない愚痴や文句を聞きながら、ミサキちゃんを待っていた。必ず来てくれると信じていたから。
事実、来てくれた。だが、いつもと様子が違う。笑っているのに、目は全く笑っていなかった。
思わず息を飲む。姑獲鳥と共に口をぎゅっとつぐみ、ミサキちゃんの様子を見守っていた。
黎たちを攫った者たちは、やらかしたのだ。ミサキちゃんが煽ったせいかもしれないけど、この罵倒は黎ですら不快に感じるものがあった。
「あの神は、拾った狐一匹に随分と入れ込んでいるらしい。神ともあろう者が、獣に情を移すとは嘆かわしいことだ!」
「挙げ句の果てには、そいつを代行者に据える始末。宇迦之御魂神も、随分と見る目がないらしい!」
「終いには、人間なんぞを贔屓している。神にあるまじき行為だ!」
なんて、地雷を踏みまくる言葉の数々。
予想通りと言うべきか、ミサキちゃんは激怒した。そんな姿を見るのは初めてだった。いつも見せてくれる笑顔なんてどこにもなくて、声も少しだけ低かった。
狐火は、夏祭りの時よりも綺麗だった。
「ミサキチャン、オコッテルネ」
「あれは流石に、怒ると思う」
姑獲鳥とコソコソ話せるくらいには、余裕があった。
こんな所で油断するのはどうかと思うが、ミサキちゃんがいる限り、何かされることはなさそうだった。それよりも、ミサキちゃんの方が怖かった。
「虫けら風情が、我が敬愛なる主を愚弄するなど、万死をもってしても贖えぬ」
そんな言葉を、見たこともない表情で口にしていた。こういうところを見ると、神の眷属なんだなと改めて実感した。
「ドウスル?」
「どうしようもないから、邪魔にならないように、大人しくしておこ?」
少しだけ、姑獲鳥と共に後ずさる。何があっても巻き込まれないように。後でミサキちゃんが罪悪感を持たずに済むように。




