↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
115/123

28.代行者 1

ミサキが怒るということは、あまりない。

 どちらかと言えば、怒ったウカを窘めるのがミサキの役目だった。ミサキが怒ることもあったが、それは母親が子供を叱りつけるようなものだった。だからこそ、ミサキが本気で怒ったらどうなるのだろうと、屋蜘蛛は常々思っていた。


「姑獲鳥さんも見つからないんですね」


「はい、どこを探してもおりませんでした」


「もしかして、あの人の子と一緒だったりする?」


「可能性は有り得ますね。ありがとうございます、式神さん。引き続きお願いします」


「かしこまりました」


 屋蜘蛛は机にかじりつき、式神が集めてくる情報を読んでは指示を出し、考えに考え込んでいるミサキを盗み見る。

 屋蜘蛛にとって、ミサキは妹のような存在だった。ミサキは、ある日、主であるウカが拾ってきた子狐だった。真っ白な毛並みは汚れ、ひどく衰弱していた。今にも死んでしまいそうな小さな命を気まぐれに拾ってきた主に、屋蜘蛛は「またいつものか」と思っていた。だが、予想に反してミサキは驚くほど早く回復し、ウカの眷属となった。

 ミサキはよく働く。式神に全てを任せていれば良いのに、率先して働くミサキに言ったことがあった。


「そんなに働かなくても、追い出されたりしないよ?」


 と。

 ミサキは、その言葉に不思議そうな表情で首を傾げていた。そして、知ってますが? という顔をしていたのを覚えている。

 ウカに大切にされ、愛されているのを自覚しているミサキには、そもそも追い出されるという考え自体がなかったようだった。

 

「なら、なんでそんなに働くの?」


「狐は恩を忘れないんですよ」


 屋蜘蛛の問いかけに、ミサキはいたずらっ子のように笑いながらそう返した。


「あと、好きなんですよ。家事全般」


 見ていればそれは理解できる。掃除、洗濯、料理……どれも苦ではなく、むしろ楽しそうにしているのを知っているから。

 屋蜘蛛にとって、ミサキは妹のような存在だった。そして同時に、よく分からない生き物でもあった。


「やっくん、これどう思いますか?」


「どれ? ……気になるなら調べた方がいいかも」


「ですよね、ありがとうございます」


 こうした問答は、時折繰り返されていた。屋蜘蛛の答えを聞く前に、ミサキは自分で答えを出していることが多い。それでも、最後には確認するように屋蜘蛛へ問いかけるのだった。

 何故ミサキは、あの人の子をすぐに迎えに行かないのか。答えは単純だった。迎えに行かないのではなく、行けないのだ。

 ウカが不在の今、眷属であるミサキの行動には制限があった。以前、鈴を辿って迎えに行けたのは、ウカの力添えがあったからだ。今のミサキ一人では、鈴の音を頼りに人の子のもとへ直接向かうことはできない。

 だからこそ、回り道をする必要があった。人の子に起きたことを理解し、相手を知り、場所を特定し迎えに行く。地道だが確実な方法だった。


「……また、聞こえた」


 ミサキは時折呟いては、歯がゆそうな悔しそうな表情を見せる。おそらく、人の子が持っている鈴の音を聞いているのだろう。呼ばれているのに助けに行けない。そのもどかしさに、ミサキの表情は暗くなる一方だった。


「……行けばいいのに」


「え?」


 思わず呟いた言葉に、ミサキが反応する。


「助けに行けばいいのにって言った」


「……助けには行きます。だけど、その手段が大変だから今頑張っているんですよ」


「なんで?」


「なんでって、ウカ様がいないからですけど!?」


「それは知ってる。でも、ミサキは今、代行者だよ」


「? そうですね」


「代行者なら、神の力を代わりに使える。だったら、縁結びも出来るでしょ?」


 屋蜘蛛の言葉に驚いたように目を丸めるミサキ。

 眷属としてのミサキには制限がある。だが、代行者として神の権能を行使する場合、その制限は適用されない。


「別に、こんな回り道しなくていいのに」


「も、もっと早く言ってください!」


 ミサキも代行者としての権能を使えると知っていて、あえて回り道をしているものだと思っていた屋蜘蛛は、今度は不思議そうに首を傾げた。


「知らなかったの?」


「今までこんなことありませんでしたからね!」


 吐き捨てるような言葉に、思わず笑ってしまう。

 バタバタと慌ただしく動き始めたミサキを眺める。式神を呼びながら着物の着崩れを直し、髪を結い上げていく。

 そして、部屋を出る寸前にミサキは屋蜘蛛を見た。


「屋敷は頼みました!」


 屋蜘蛛の答えを聞く暇もなく、そのまま走って行くミサキにとうとう吹き出した。


「行ってらっしゃい」


 屋蜘蛛は小さな声でそういう。

 そして、屋蜘蛛は代行者様の言葉に従い、屋敷に新たな結界を施した。

 ミサキたちが必ず帰ってこられるように――そう願いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。