27.誘拐
近隣の小学校や中学校では、不審者情報を受け、一人で帰らず集団で下校するよう呼びかけられていた。
黎たちも例に漏れず、いつもの五人でぞろぞろと下校していた。
「噂話、ずいぶん大きくなっちまったな」
「でもぉ、実際にはどうなんだろうねぇ?」
「噂が本当かって話か? う〜ん、本当なら面白いけど、ここまで話が大きくなるのはちょっと……」
「学校のみんなも面白がり始めちゃったもんね」
「危機感とか皆無だもんね」
雑談の内容は、あの噂話について。
思ったよりも大きな事態になってしまったが、全員、噂をそこまで信じてはいなかった。学校内でも面白おかしく語る生徒や、本田のように真意を探ろうと色々話を聞いて回る生徒などがいた。
黎は、あの噂話が本当だということを知っていた。だが、それを話すことはしなかった。無駄に怖がらせたり、変なことに巻き込まれて欲しくないからだ。
ミサキに言われた通り、姑獲鳥と行動を共にしていた。何も起こらないのが一番だが、警戒するに越したことはない。
「会ってみたい気もするけどな」
「やめろ」
本田のつぶやきに、全員が反応した。冗談だとしても笑えない。本田は好奇心で動く生き物だ。いつか痛い目を見そうで、本当に怖い。
「本田、危ないことしないでね」
「……なんだよ、姑山。……分かってるよ」
黎に真剣な目で見つめられ、本田はバツが悪そうに頷いた。
素直でいいやつなため、こう言えば無茶はしないだろう。
「じゃあ、またな」
「気をつけて帰れよ」
みんなと別れて、姑獲鳥と二人で帰る。まだ少し明るいから、安心して帰ることができる。
「ナニカ、ツイテキテル……」
姑獲鳥が黎にコソリと教えてくれる。黎もわかっていた。
というのも、この頃、ずっと黒い影が見えていた。何をするでもなく、ただ黎を見ているだけの存在だった。特に害もないので、気にしていなかったが、放置していたことを後悔した。
「……ずっと、同じところ歩いてるね」
「ウン、カエレナイ」
以前、咲耶姫に神隠しされた時と同じような感覚だった。同じところをぐるぐると回っている。視線だけで周囲を確認しても、いつもと変わらない景色が見えるだけ。そのせいもあって、感覚がバグりそうだった。
黎は、いつも腕に着けている鈴に触れた。触れると、自然と怖さが薄れていくからだ。
「逃げられそうかな?」
「……ムリカモ」
ならば仕方ない。このまま歩き回って体力を消耗するのはもったいない。
そう思った黎は、立ち止まり、振り返った。
怖いはずなのに、そこまで怖いとは思えなかった。それは成長なのか、慢心なのか――はたまた、信頼なのか。誰にも分からない。
「何か、用ですか?」
黎が声をかけるのと同時に、相手が手を伸ばしてきた。
掴まれそうになったが、何とかかわした。
「何か用ですか?」
もう一度問いかけたが、答えはない。どうやら、黎を捕まえたいらしい。
姑獲鳥と目を合わせてから、かわすのをやめて捕まった。逃げられるとも思っていなかったからだ。
黒い影に飲み込まれる寸前、人知れず鈴がチリンと鳴った。




