21.不在の弊害
ウカが出雲に出かけてから数日。ミサキは何事もなく日常を過ごしていた――わけではなく。
「ま、待ってくださーい!」
きた
こっちきた
にげろ
みんなにげろ
「わ、そっちはダメですってば!」
ウカが不在なのを良いことに、低位の妖怪たちが好き放題をしていたのだった。それを捕まえて説教をするのだが、如何せん数が多い。しかも、ミサキが言っても高確率で舐めた態度を取られる。最初はそういう反応も仕方がないと割り切っていたが、そろそろ我慢の限界に達しそうだった。
「ミサキ様、わたしがこちらを捕まえます」
「では、あたしがこっちの子たちを捕まえますね」
「紅様、朱様、助かります!」
一人で捕まえられないなら、数を増やせばいい。そう思ったミサキは、春に仲良くなった双子の天狗に手伝ってもらうことにした。二人は快く承諾してくれて、羽で器用に飛びながら妖怪たちを追いかけ回している。それはさながら、牧羊犬のよう……
「とてつもなく楽しんでいますね……」
下から見ていたミサキは、その楽しそうな様子を見て、人選をミスったかと少し不安になっていた。というのも、同じ妖怪だとしても天狗は怖いのか、逃げ回っている低位の妖怪たちが半泣きなのだ。
「とてつもなく、悪いことをしている気分です」
イラついたからと言って、相手の苦手なものを使ってはいけないことを改めて理解した。これは、酷い……
ごめんなさい
もうしない
てんぐこわい
ぺしょぺしょに泣きながら謝る低位妖怪たちに、ミサキの良心がチクチクと痛んだ。「そんなつもりはなかった」なんて言い訳でしかない。ミサキは素直に、低位妖怪たちに謝った。
「私こそ、ごめんなさい。少しやりすぎてしまいました。
ですが、また悪さをしたらやりますので、覚えていてくださいね」
「……ミサキ様、怖い」
「流石ですね、ミサキ様」
どんなに良心が痛んでも、釘を刺すことは忘れない。優しくしたせいで、また悪さをされては叶わないので。だが、相当怖かったのか、低位妖怪たちはガクガクと震えながら必死に首を縦に振っていた。後ろでは、二人がコソコソと話していたが、ミサキは気付かないふりをしていた。
「紅様、朱様、お手伝いありがとうございました!」
「いえ、あたしたちを頼って頂き光栄です」
「いつでも呼んでください!」
キャッキャと手を取りながら飛び跳ねる三人。その様子は、同年代の子供のようでとても微笑ましい様子だった。
「宇迦之御魂神様が居ないと、色んな問題が起こるのですね」
「改めて、敬服します」
「そうなんです! ウカ様はとってもすごくて! 私も頑張らなきゃ」
ふんすとやる気を出すミサキに、紅と朱は顔を見合わせて笑った。
「あ! 屋敷でご飯を食べて行ってください!」
「是非!」
二人揃った返事にミサキは驚きながらも、嬉しい気持ちになった。
紅と朱は、ミサキの作るご飯が大好きだった。この手伝いに来たのも、ミサキのご飯が食べられないかという下心があったのだった。純粋に頼ってもらったのが、嬉しかったというのもあるが……
「今日のお昼は、炊き込みご飯ですよ! あ、お夕飯も食べていきますか? 石狩鍋なんですけど」
「食べます!」
またもや揃う二人の返事に、ミサキは笑顔になった。三人仲良く屋敷へ帰り、ご飯を食べるのだった。
「……」
影から誰かが見ている。男か女かも分からないその姿。野生動物が威嚇するかのように唸るが、次の瞬間飛び跳ねるようにして逃げていった。




