18.神々
門をくぐった直後、浮遊感に襲われたが、気にせず地に足をつけた。ゆっくりと辺りを見渡し、無事に出雲に到着したのを確認した。
遠くから聞こえてくる囃子を耳にしながら、式神に声をかける。
「式」
「はい、主様」
先程までいなかったはずの式神が、当然のようにそこに立っていた。特に驚くこともなく、そのまま話をする。
「屋敷との連絡は?」
「滞りなく」
「ならば良い。半歩後ろをついていろ」
「かしこまりました」
会話を終え、一つため息をついてから歩き出す。
下位の神々の視線が鬱陶しい。コソコソと小さな話し声も聞こえるが、無視してただ前を向いて歩いている。
広い会議室にたどり着くと、割り当てられた席に座り、深く息をついた。
円形の会議室は、上に行くほど広く、逆円錐のような形をしている。ゆっくりと会議室全体を見渡す。既に座っている神もいれば、まだ到着していない神もいるようで、空席が目立っていた。
「ごきげんよう、宇迦之御魂神」
声をかけられた方を向くと、そこには秋の女神竜田姫が笑顔を張りつけて立っていた。
竜田姫は、グレーの髪を、真っ赤な彼岸花の簪で留めている。橙色の着物には、黄色や赤で色鮮やかな紅葉が描かれていた。濃い紫の帯には、白い帯留めが添えられている。
真っ黒な瞳は、まるで何の感情も映していないかのように、静かにこちらを見つめていた。
「何か用か?」
「ご挨拶に来ただけです。姉たちもお世話になったようなので」
ニコリと貼り付けた笑みとは裏腹に、声には何の感情も乗っていなかった。ただ居たから声をかけた、という方が正しいほどの無関心さにいっそ尊敬の念すら抱く。
「そうか」
「……不審な動きがあります。お気をつけて」
そう言い残し、竜田姫は自分の席へと戻った。気まぐれのように言い残された言葉に、深いため息をついた。
ここに来てから、ため息しかついていないが、仕方がない。まだ会議が始まってすらいないが、さっさと終われと思ってしまう。
「帰りたい……」
「まだ来たばかりですよ、主様」
「わかっている」
「あれ? チョリース! ウカっち! 久しぶりじゃん!」
式と話していると、騒がしい声が聞こえ、眉間に皺が寄るのが分かる。驚くほど軽い言葉遣いと振る舞いに、頭が痛くなってきた。
「帰る……」
「え!? まだ始まってね〜よ?」
「煩くてかなわん」
「ちょっと挨拶しただけじゃん、ウカっち!」
来たばかりだというのに、疲労感がすごい。一か月もここに居なければならないかと思うと、苦痛で仕方なかった。
そして、今はペラペラと喋る、このうるさい男をどうしてやろうかと考えていた。




