17.神無月
続々と出雲に神が集まる中、一人の神は駄々を捏ねていた。
「行きたくない……」
ウカはミサキを抱きしめたまま、微動だにしなかった。時々、独り言のように「行きたくない」と零す程度。抱きしめられているミサキは、初めこそ仕方がないなという顔で慰めていたが、段々と困った顔になっていた。
「ウカ様、行かないとですよ?」
「行きたくない……」
「よしよし、行きたくなくても行かないとですよ」
そういうと、少し抱きしめる力が強くなる。ミサキは抗議するようにペチペチとウカの腕を叩いた。すると、少しだけ抱きしめる力が弱くなった。この光景は、先程から何度も繰り返している。
「式神さん、助けて!」
たまらず、式神に助けを求めるが、式神たちはやれやれといった様子。顔は面布で全く見えないが、呆れているのが伝わる。
「主様、そろそろお時間です」
「遅れてしまいますよ」
式神たちがウカに声をかけるが、ウカは全く反応しなかった。
「ウカ様、頑張ってきてください!」
「嫌だ」
「ウカ様……」
ミサキは小さくため息をついた。毎年のことではあるが、ウカへの対応は全くもって慣れない。年を重ねるごとに、面倒臭さが倍増しているようで去年の声掛けも全く効かなかった。
どうやってご機嫌を取ろうか考えるミサキを見下ろし、ウカは「もう少し駄々を捏ねてもいける」と思っていた。ウカもウカで、ミサキの反応を楽しんでいたのだ。あの手この手で何とかご機嫌を取ろうとしている健気なミサキを見るのが好きだったのだ。
式神たちは、そんなウカの思惑にいち早く気づいていた。そのため、式神たちは軽い声掛けしかしない。
「ウカ様、私お留守番くらいできますから!」
「知っている」
「だから、安心して行ってきてください!」
ミサキは最早、面倒臭くなってきていた。内心、「さっさと行け!」と思っているが、顔にも声にも出さない。出したら出したで面倒なことを理解しているからだ。
「……はぁ、何かあったら式神たちや巫女に伝えろ」
「はい、ウカ様!」
「出来る限り、危ないことをするな」
「もちろんです!」
「一人でどうにかするな」
「善処します!」
「早めに帰ってくる」
「うーん、期待しないでおきますね」
テンポよく交わされる会話。毎年、同じやり取りをしてからウカは出雲へ向かう。やっと行く気になったようで、ミサキは安心したようににっこりと笑った。
「……早めに帰ってくる」
「分かりました。待っていますね」
ミサキの返事に満足したように頷いてから、ミサキを離す。特に持っていくものも無いため、そのまま門へと歩き出す。ミサキとお留守番の式神たちは、後ろから追う。
門にたどり着くと、ウカはクルリとミサキたちの方を見た。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ!」
「無事のお帰りを、お待ちしております」
頭を下げ、ウカを見送る。最後まで不満そうな顔をしていたウカは、諦めたような顔をしながら、門をくぐっていった。




