16.招待状
ウカは、子供たちの声を聞きながら、部屋で一枚の手紙を見ていた。
白色の封筒に『宇迦之御魂神様』と書かれた簡素な手紙。中身を見なくとも、ウカには何が書かれているかは分かっていた。
毎年行われる『神議り』と呼ばれる、神たちの会議への招待状が送られてきたのだ。
10月は、神様が各地から出雲大社へと赴く。そのため、神が居ない月という意味で『神無月』と呼ばれている。逆に、各地から神が集まることから出雲では『神在月』と呼ばれていたりする。
そして、この会議では人々の縁結びや来年の農作物、運命などが話し合われる。だが、悲しいことに神は自由なものが多いため、一か月のうち大半が雑談で消化されてしまう。そんな面倒な会議にウカは行きたくなかった。
「主様、いい加減腹を括ってくださいませ」
「あんなクソみたいな会議に、なんの意味があると言うんだ」
深いため息をつきながら、招待状を手放す。招待状は重力に従って、ひらりと机の上に落ちた。
「そんなことを言いましても、行かなければならないですよ」
「……わかっている」
どんなに拒否したところで、行かないという選択をすることは出来ない。顔を見せておくということも大事なのだ。とてつもない大人の事情というものである。
だが、ウカが拒否する理由は他にもあった。一か月も出雲へ赴くということは、一か月もミサキと会うことが出来ないということだった。それが毎年苦痛で仕方ない。
連れて行ければ良いのだが、まだ眷属として未熟なミサキを連れて行くのはデメリットの方が大きい。それに、ミサキにはウカの代わりを務めて貰わなくてはならなかった。
神が居なくなると、困ることは多くある。そのための措置として、神は自身の眷属を代行者としてその土地を任せるのだった。
ウカの場合は、ミサキを……
「ミサキ様には、私どもが付いておりますのでご安心を」
「……そこは心配しておらん」
毎年のことなのだ。ミサキの代行者としての仕事ぶりは知っている。そのため、その点は心配していないのだが……
「何もなければ良いのだが……」
今年は、黎が居る。去年までとは少し違うため、何が起こるか予想がつかなかった。
何かあれば連絡が来るが、すぐに戻ってこられるとは限らない。
「憂鬱だ……」
外から聞こえる楽しそうな声とは裏腹に、ウカの気分は晴れなかった。




