14.十五夜
「で、今年も来たってわけよ!」
「はぁ……」
黎は、なんとも言えない気持ちのまま、生返事をするしかなかった。
遡ること、数時間前――
黎は学校が終わり、施設にも寄らず、姑獲鳥と一緒にウカの屋敷へと帰ってきていた。それも、ミサキと約束していた団子作りをするために。
「ただいま」と戸を開けると、式神たちが出迎えてくれる。式神たちはお月見会場を設営しているようで、クルクルと忙しなく動いていた。
それを横目に、ウカに挨拶をしに行ってから厨へ向かうと、ミサキが満面の笑みで出迎えてくれる。それが嬉しくて、黎も笑顔を返す。
「黎くん、おかえりなさい!」
「ただいま、ミサキちゃん」
「お団子作りの準備はできているので、お手手を洗ってくださいね」
「わかった」
団子作りは思いのほか難しくなかった。だが、上手く丸めることが出来ず、少し歪な形にでき上がったものもあった。それでも……
「黎くん、お上手です! とっても美味しそう!」
と、ミサキは大袈裟なくらい褒めてくれた。
茹で上がったお団子を冷やしている間にタレを作った。と言っても、大体は出来上がっていた。黎がやったことといえば、味見くらいだった。
出来上がった団子を盛り付け、お月見会場に行くと先客がいた。黎は「誰だろう」と首を傾げていると、ミサキが先客の名前を呼んだ。
「月読命様!」
名前を呼ばれ、その人が振り返る。キラキラと輝く黒髪はまるで夜空に星が浮かんでいるような輝きで、金色の瞳は満月をそのまま閉じ込めたかのように見えた。
「ミサキ!」
儚げな顔から一変、ミサキを見つけたその顔はお気に入りのおもちゃを見つけた時の子供のような顔だった。
「いついらしたんですか?」
「ついさっきよ! 今年も素敵な会場ね」
「式神さんたちが張り切って準備してますからね」
「それで、その子がウカのオキニ?」
月読命が黎を見る。いきなり見られた黎は、驚き、目を瞬かせる。
「そうなんですけど、ちょっと言い方が古いです」
「うそ!? オキニって古い?」
「古いですね」
「なんかショック……まあいいや! 初めまして、私が月読命よ!」
テンションについていけず、黎は会釈をするだけ。それでも月読命は気にせず、昔話を始めた。
そして、話し終えると言い放ったのが、冒頭の言葉である。
すっかり夜も更け、キラキラと輝く大きな月が見えている。
「月読命様、今年もお一人で来られたのですか?」
「そうなの! だってあの子ったら過保護なんだもん」
あの子は、昔話にも出てきた眷属のうさぎのことだろうと黎は思った。それと同時に、苦労しているんだなとも思いながら、姑獲鳥と一緒に作った団子を食べていた。
「騒がしい奴だ。毎年毎年……」
「あ、ウカ! おひさ〜」
「食ったらさっさと帰れ。うさぎたちも餅をついてるんだろう?」
そう言いながら、ウカは月を見上げる。つられるように、黎と姑獲鳥も月を見上げると、うさぎが月の表面に見えた。その姿は餅つきをしているようだった。
「そうなんだけど、意地悪言わないでよ! ミサキの作った団子すっごく美味しいんだから!」
月読命は、顔をほころばせながら美味しそうに団子を食べている。ウカは溜息をつき、ミサキを膝の上に乗せて団子を食べ始めた。
「今年の月も綺麗でしょ?」
月読命は、黎を見つめながらそう言う。満月のような金色の瞳に見つめられた黎は、すべてを見透かされているような気分になった。
「……とても、綺麗です」
「でしょ? ありがと!」
絞り出すように伝えた言葉に、月読命は無邪気な笑顔でお礼を言う。その姿は、神とは思えないほど純粋な姿だった。




