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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第6章「勃発?第3次世界大戦」編

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第179話「『自由の国』が停まる時 (後編)」

水曜日、10:00。

アーリントン州『ファイアフォックス郡政府センター』


普段のここは、なんてことない退屈な行政ビルだ。免許の更新に行ったり、固定資産税の相談をしたりする、ガラス張りの、どこにでもある郡役所。


それが昨夜から、この国の民主主義を守る最前線になっていた。


本当なら、こんな場所にいるつもりなんてなかった。本来ならダイナーへ恋人であるレイチェルを迎えに行って、バイト終わりの彼女とハンバーガーでも食べながら他愛もない話をしていたはずだ。


でも、それはできない。


「州知事が代われば、彼女の母親は国外退去になるかもしれない」


先週、ダイナーで彼女が笑いながら言ったその言葉だけが、ずっと頭から離れなかった。


だから僕は、青いプラカードを片手にここへ来た。


『民主主義を守れ』


そう書かれた紙は、徹夜明けの湿った空気を吸って少しだけ波打っている。家に国旗なんてあるわけがない。だからナイルで一番安かったものを注文した。


役所の裏口は、今も黄色いバリケードとアーリントン州兵のSUVで完全に封鎖されていた。報道がドローンで空撮でもしているのか、時折ドローンのローター音が喧騒に混ざるようになった。


午前の陽射しが照りつけても、事態は少しも穏やかにならない。


メガホンのハウリングと、「開票を止めろ!」という赤い帽子とプラカードの連中の怒号だけが途切れることなく続いている。


赤い帽子をかぶった人たちも、僕たちも、誰もまともに眠っていない。目の下には同じように黒いクマができている。疲れているのは、お互い様だった。


徹夜明けの集計スタッフが、警備員に守られながら建物から出てくる。


その瞬間だった。


「裏切り者!」

「お前たちの顔は覚えたぞ!」


怒号が一斉に飛ぶ。


スタッフは誰一人言い返さず、足早にバスへ乗り込んでいく。


僕は思わず国旗を振った。彼らこそがこの国の民主主義を守っていると思ったからだ。

『環境配慮のために竿部分を樹脂製から金属製に変更しました』と説明のあった竿は酷く冷たい。


頼む。

あと少しだけでいい。

何事もなく、この再集計が終わってくれ。


それだけで、彼女はこの国に残れるかもしれないのだから。


刹那。


国旗を振っていた右肩に鋭い痛みが走る。

直後に


パーン!


と乾いた音が周囲の怒号を静かにする。


「発砲だ!」

「州兵の方から銃声がしたぞ!」

「州兵が撃った!」


どちらの陣営も蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。


僕だけが痛みで動けない。

逃げ惑う数人が僕にぶつかり、肩を見て更にパニックになって走り去る。

出入り口にいた州兵たちも一斉に銃を構え、周囲へ向けて警戒を始めている。

警官が「伏せろ!」と必死に叫んでいる。


着ていたダウンジャケットから羽毛が飛び出し、ゆっくりと右肩に目を向ける。


そこから血が流れ出ている。


それを見て、膝から崩れ落ちた。

白い羽毛だけが、ゆっくりと宙を舞い、逃げ惑う人々に踏まれそうになる。


倒れた僕に警官が駆け寄る。


止血のために肩を強く押さえられた瞬間、激痛で意識が暗転した。


♦︎♦︎♦︎


アーリントン州、リングレー。CIF(Central Intelligence Freedom-country)本部。


「アーリントン州、ファイアフォックス郡政府センターで州兵が市民に発砲したと見られます!」

「サバダ州ローズウェル大学体育館開票所でも同様の事件が発生!こちらは政和党支持者が死亡しています!」

「ニューヤーク州でも3ヶ所で発生している模様!」


オペレーター達が叫ぶようにそれぞれ報告する。


「第11艦隊の方はどうだ?」


これに答えるのはサイバー部門・統括責任者のリチャードだ。


「ドローン全機正常稼働中。また、AIをリンクさせて『ライブラ』で読み込んでいますが、どうにも妙です。特に赤外線。発砲があれば高温になり探知できるはずですが、それもありません」


一例として、1番大きなモニターに事件直前からの赤外線動画と通常動画が並んで再生される。被害者は若い国民党支持者、発砲音は州兵側からしたのだろう、両党支持者共にそちらを向いている。だが、赤外線動画に高温は検知されていない。


「どういう事だ?」

「『ライブラ』の分析は『事件は起こっていない』となっています。死亡事件であるにもかかわらず、です」


益々わからず、ポーターは考え込む。

更に。


「ノースキャロライン州でも4件発生!」

「アーリントン州も3件、追加で発生しました!」

「各SNS、動画・画像・投稿が出回り始めました!」

「事件を受けてニューヤーク州は一時開票作業を停止を決定しました」


『自由の国』がゆっくりと静止を始めた。


その時だった。


「情けないわね。それでも世界最高の諜報機関なの?」


ポーターを始めとした全員が入口の方を向く。


若い。

いや、『子供』そのものの甲高い声だった。

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