第175話「正気か?」
自由の国、首都近郊。アーリントン州、リングレー。CIF(Central Intelligence Freedom-country)本部。
「正気か?」
私のいきなりの登場に現職長官のポーター=コールマンをはじめとした幹部達は目を剥く。
「オペレーター、誰でもいい。連合王国『7:MI』とコンタクトをとってくれ」
本来ならそんな権限は私にはもうない。
だが、私のただならぬ様子に押され、1人が部屋の外へと急いだ。
「ルーザー前長官、何が問題なのでしょう?」
メタボ体型の黒人男性が聞く。リチャード=キング、サイバー部門の責任者だ。
「知っての通り、20州で選挙がリ・カウントになった訳だが?」
「それは民主主義が完璧に作用しているからでしょう?」
「他国から、民意を誘導されたとしても?」
「そんな兆候があれば僕が見逃しませんよ!」
プライドを刺激したのか、リチャードが語気を強めて言った。
「リチャードが有能なのは知ってるさ。だが今回の敵は、人間ではない。だから見逃した」
「どこかのSFみたいに、AIが人類を洗脳したとでも?」
「その通りだ。具体的にはSNSのおすすめ機能だがな」
「そんな!それならどちらかの党が圧勝するはずでしょう?」
「敵の狙いはこの異常な均衡状態にあったとしたら?君は確かに外部のサイバー攻撃から、ネットワークを守った。しかし、そのネットワークこそが今回の敵だったというだけだ」
リチャードは絶句する。
「方法は単純だ。SNSを一般利用者と同じように使っただけだ。サーバーへ侵入もしない。投票システムにも触れない。外部からネットワークへ攻撃もしない」
周囲も黙って聞いている。
特にポーターなど、憔悴しきっている。
「君が守っていたのは『ネットワーク』だ。奴らが攻撃したのは『人間』だった」
こう結んだ私に、リチャードがヘッドセットとノートPCを開く。
「『ライブラ』起動」
『ライブラ』はリチャードが作ったAIでCIFが長年に渡り蓄積してきたデータを保存・整理・分析するのに特化していた。
「SNSで中間選挙に関する投稿、海外IPのもの」
『検索結果200万件以上、更なる絞り込みを求めます』
メインモニターにそう表示が出る。
「投稿数の推移を棒グラフ化できるかね?」
「簡単です。『投稿数を日別の棒グラフに』」
即座に結果が表示される。
「投票日、4日前の土曜日だな」
そこから爆発的に投稿数が増加している。
「お言葉ですが、我々に気づかせない優秀な工作員がいたとして、海外IPを使う愚を犯すとは思えません」
「もっともだ。だが、拡散させるにはボットが最適だろう?何万ものアカウント全てを国内IPにするのは現実的ではない。結果、海外IPが増えるという事だ」
「なるほど、それで投票日4日前、この爆発的増加は何が?」
「私の中で仮説はある。だが、それこそ君の『ライブラ』の出番だ」
リチャードが『ライブラ』に指示を出す。
『ワールドカップ・優勝者の藤原さくら、訓練中に負傷を負い、全治1ヶ月』
モニターに出た情報に私以外の者は訝しむ。
無理もない。選挙へのディスインフォメーション(世論誘導)と日本の魔法少女の負傷、全く結びつきが見えないからだ。
そこへ、先ほど飛び出したオペレーターが戻ってくる。
「連合王国側と繋ぎます。メインモニターに出します」
誰の許可も得ずにそうする様子に少し違和感を抱く。だが、その違和感はすぐに解消される。
メインモニターに映し出された人物を見て、その場の全員が息をのんだ。
そこにいたのは、連合王国君主・エリザード2世。
「すまんな、『7:MI』は全員忙しくてな」
連合王国らしく皮肉たっぷりに女王はそう言った。




