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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第6章「勃発?第3次世界大戦」編

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第173話「欠点と真意」

「それでは2回目を始めるぞ。スタート!」


残り時間15分。


風は北西2メートル。まずは二手に分かれる。追い風にならないよう、北東組と南西組へ。作戦通りだ。わたしとレーラ、ヨハンナが北東組だ。


エリアギリギリを告げる、アラートが鳴る。

元々は脱走防止用。許可なく学校から離れようとする生徒に警告する目的らしい。


その音が鳴らないギリギリ、ぐんぐんと上昇していく。


残り時間14分。

先生が動き出した。だが、ここからではよく見えない。それだけ距離が取れたのだと実感する。


『それじゃ、始めるぞ!なかなかアタマを使ったようだな。おそらく計算の得意な、クマロあたりの作戦だろうが、甘いな』


『テンペスト』から植村先生の声がする。クマロはズィーの本名だ。「ズィンレ=クマロ、発音しにくいなら『ズィー』って呼んで」初日の自己紹介の記憶が蘇る。


水面に豆粒のような影が一瞬映る。


『1人目・ヨハンナ=フーバー、アウト。欠点その1、スタート地点は円の中心。つまりは最初の1人目は平面ならどこでも1キロ以内だ』


残り時間12分。最初の計算違いが露呈した。

植村先生が動き出して1分。きっちり時速60キロ。ズィーの計測は正しかった。いや、そこから移動する事なく『テンペスト』で解説しているところを見るに、こちらの計算を見抜いているのかもしれない。だからこそ、ここで1分余計に使った。


しかし、こちらはあと4人。1人3分づつかかれば、ちょうどになる。捕まえるのに手間取れば、数秒の差で勝てると思っていた。


だが。


植村先生はそのまま上昇する。


そして、


『2人目、ヴァレリア=クズネツォヴァ、(レーラ)アウト。欠点、その2。ジグザグに捕まえさせて距離を取るつもりだったのだろうが、2人目より3人目のクズネツォヴァの方が近くなっている』


言われてハッとした。そうだ、計画では2人目は南西組のカイホウのはずだった。そこまで高低差を含めて3キロ。だがそのまま垂直に上昇すれば3人目のレーラまで2キロしかない。


残り時間10分の出来事である。


そして、それは、先生の次のターゲットがわたしになった事を意味していた。


『欠点、その3。ーー』


風を切り裂く音が聞こえ、植村先生が近づいてくる。『テンペスト』と生身の声が、ステレオのように重なった


「重力加速度が加われば、あたしはもっと速くなる。つまり、1番上にいるベルナールを捕まえれば、その後は降下しながら全員を追える。距離を取ろうが無意味だ!」


刹那。


「『Tranchant du ventトランシャン・デュ・ヴァン』!」


わたしを捕まえようと手を伸ばしたその腕ごと、切断する勢いで風魔法を放つ。


「3人目ーーなッ!」


たまらず先生は身体をひねって躱わす。

そこへ、


「『Tranchant du ventトランシャン・デュ・ヴァン』!」


今度こそ、大きく躱わす。できたスペースに、自分で放った風の刃を追いかけるようにわたしは落下していく。


「上等だ!あたしにスピード勝負を挑むとは!」


先生が追って来る。


だが。


「何故だ!スピードが同等だと?……そうか!スリップストリーム!」


聞いた事がある言葉だが、意味は知らない。だが、不思議な事に魔法の軌道の後を飛ぶとスピードが出るのは経験として知っている。さっき先生が言っていた、重力加速度を利用するために始めは垂直気味に、徐々に水面に平行になるように、そういう軌道を描くようにコントロールした風の刃を追っていく。まるで数学の反比例のグラフのように。


しかし。


「チェックメイトだ」


辿りついたのは校舎のある島から南東、1キロにある無人島。魔法が消え、スピードが落ちてそこで先生に捕まった。


「植村先生も、です。残り時間、あと2分。残り2人ですよ?」


呼吸がしづらいのは急激な気圧差のせいだろうか?言葉に詰まりつつ、伝える事は伝えた。


残ったズィーとカイホウの2人はわたし達と入れ替わるように遥か上空にいた。


「1つだけ教えろ。さっき上空で魔法を放ったのは作戦か?」

「いいえ。本当に怖かったんです。躱してくれて助かりました。腕を切ってしまうかと思いました」

「ははは!それでいい。頭のイイ奴とクレイジーな奴が戦った時、クレイジーな奴が勝つんだ。先が読めないからな」


そう締めて、『テンペスト』の液晶を操作した。


「ギブアップだ!全員スタート地点に集合!」


また、ステレオの声が響いた。


♦︎♦︎♦︎


「おめでとう。君達の勝利だ!」


ジャージの内ポケットがついているようで、そこから財布を取り出し、万札を5枚出した。


「ベルナール、受け取れ」


わたしに受け取るよう指示する。残った4人もわたしが受け取るのが当然。みたいな顔をしている。


受け取ろうと手を伸ばすと、わたしが届かない高さまで、ひょいと持ち上げた。


「ーーと、言いたいところだが、もう1回しないか?次は完全休養3日の1人3万だ!ただし、負ければ全部ナシだ!」


5人の顔がそれぞれ変わる。


「ふふっ、3日間もリアムのSNSを眺めていられるのね!ひょっとしたら、ライブカメラで通勤風景から見れる!幸せだわ!」


ヨハンナがもう勝ったつもりでそう言い。


「3万円……私の国、ヨネスバーグ郊外の家ならその金額が頭金になるか。あと半額は金利1.2%のローンとして……」


即座に人生設計を始めるズィー。


「みんな、やめておこうよ。今回は『たまたま』だよ!」

「そうだ。ここが引き際だと自分も思う」


レーラがみんなに言い、カイホウがそれに同意する。


「どうやら2対2だな?ベルナール、おまえで決まるぞ」


正直に言って先生を相手にもう1度スピード勝負をしたい気持ちもあった。スリップストリームというらしいあれは空気抵抗を抑える効果があるらしい。戻りながら先生が教えてくれた。


「やります!」


短くそう言ったわたしを、満足そうに植村先生がうなづく。


「決まりだな。15分、給水タイムだ。それから全員これを塗れ。日焼け止めだ。上空は11月とはいえ、紫外線が強いからな」


そう言って、今度はジャージのポケットからクリームのチューブを出した。


それをレーラに渡すとジャージの上着を脱いだ。植村先生の姿にギョッとする。


甲冑のガントレットのようなプロテクターを腕から手首までつけている。それを外すと、『ドッ』と重量感のある音と共に地面に落ちた。


「片方10キロある。これで今は60キロ台だ。まだ両足もあるからな。さすがにスピード勝負で互角はレーサーとして恥ずかしいからな」


わたしを獲物を狙う猛禽類のように見た。


結果は、惨敗だった。


わたし達は、1回目よりもさらに短い時間で、5人全員が捕まった。


♦︎♦︎♦︎


昼食を食べて午後。実技の時間。


「コルホネン。記録2100m。新記録だな」


高野先生がそう言ってノーラを褒めた。


「次、イネス=ベルナール」

「はい」


いつも通り最初は全力で魔法を撃ち、それを計測する時間だった。


「『Tranchant du ventトランシャン・デュ・ヴァン』!」


計測しやすいように、水面に風の刃を当てる。


あれ?


いつもよりスピードも速いし、何より見えなくなった。ちなみに、昨日の記録は300mだった。

全員が初日にノーラの魔法を見たように驚いている。


「ベルナール。け、計測不能」


高野先生が冷静さを保とうとして少しだけ失敗した。


「大方、6キロといったところか……」


後ろからかけられた声に振り向くと、植村先生だった。


「あの鬼ごっこの最中、おまえは上空4キロから魔法を放った。ギリギリ、あの島に届くぐらいのね。直線距離で6キロ。ただし、おまえは弧を描くように飛んでいたから、もっとかもな」


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