第164話「『森林の国』の魔法少女 その5」
「それにしても、凄いペースで成長しているわね、ノーラ」
講義が終わって夜、シャワーを浴びた髪を乾かしながら、セラフィナが言った。
「マイ先生が凄いんだよ。感覚としては敷かれたレールの上を言われるままにトロッコで運ばれているみたいなんだもん」
「それでも、最初の実技で無人島まで届いていたのが、今やあの島を超えて先まで飛んでるじゃない!あれ、どのくらい飛んでるの?」
大体、訓練の最後に初日と同じ測定を行う。
「うっ、…1.7キロ」
「は?4日で170%?」
「だから、凄いのはマイ先生なんだって。初日より、水平方向より7度高めに射出してるし。初日は単に水を押し出すものを、今は洗濯機とかのイメージで捻って出してる。結局、あの果てしなく地味な精密制御の賜物なの。それと座学。論説文が野球のストレートとかカーブの話でそれがヒントになったし」
一気にまくし立てるわにセラフィナは笑った。
「熱弁をありがとう。それで今日からよね?」
「うっ、やっぱりダメ?」
「3日連続で、訓練するノーラと干してる布団に注目を浴びたいのなら、止めないけど?」
「注目を浴びてないもん!今日は4人もいたし。リンシャンちゃんもだったし!」
「それ、言い訳にもなってないわよ。4日連続はノーラだけよ。それに気づいてるでしょ?昼間も結構危なかった事」
やっぱり見られていたか。
「うっ、だって恥ずかしいんだもの」
「だから、私とお揃いのおむつにしようって誘っているの。日本製、凄いよ。出したのを忘れるぐらい」
魔法学の授業で言われていた事だ。
『魔力』とは大気中にあるエネルギーである。
『魔力』を使って物理法則を超える現象を起こすのが『魔法』。
魔法少女や魔女が大気中から『魔力』を取り込むとき、同時に水分も大気中から体内に取り込んでしまう。
結果として、常人の数倍の尿量が生成される。
セラフィナは計算違いをしている。
ここに来る前の私はせいぜい100m程しか水を飛ばせない魔法少女だった。
つまりは17倍だ。そして水分量も。
意を決して、セラフィナが用意していたものを手に取り、身につける。
思っていたより薄く軽い。少し前までつけていた綿のパンツと大差ない感じだった。ショーツと比べると面積が大きく感じるけれど。
「どう?」
「似合っているわ」
「それ、褒めているように感じないわ」
2人ともTシャツの下はおむつだけといった状況でそう感想を言い合った。
「日本の魔法少女はこれが『普通』なのよね?」
「ええ、マコトからそう聞いているわ」
セラフィナがそう言った。
「ワールドカップ・準決勝。おむつつけてればもっとマシな戦いになっていたのかな?それでもマコトに勝てるとは思えないけど……」
セラフィナの聞こえるか聞こえないかギリギリの呟き。それは私の耳に入った。
「私も映像で見てた。今ならあの条件なら勝てるかも」
私の言葉にセラフィナが目を見開く。
「あの盾を破るのは簡単ではないわ!」
「誰も『あの盾を破って勝利する』とは言ってないわ。いい、マコトはあの盾を薄く全身に常時展開してる。そうよね?」
「間違いないわ。あの後、欧州3大魔女筆頭のエリザード女王の攻撃魔法を受けてもケロリとしてたわ」
「じゃあ、彼女はどうやって生きてるの?彼女も人間よ。呼吸はしてるはず」
「あ!」
ここまで言えばセラフィナも気がつく。
もっとも、ここで学んだからこその対処法ではあるのだけど。
「つまり、ノーラであればあの盾を覆うように水を発生させる。そうすれば呼吸ができなくなるって事ね!」
「座学で1番優秀なセラフィナならもっと別の方法も思いつくんじゃない?もっとも、今日やってた、FX?が魔法の役に立つのかわからないけれど」
セラフィナは大学入試すら解き終えて、今は実践的な座学を習っていた。今日はパソコンを使って仮想FXをやっていた。
「それこそ、魔法少女から魔女になれば政治・経済と関わる事は多いわ。マイティーチャーはそこまで考えている」
日本に来てよかった。と、実感した時だった。
「ノーラ。あなたのおむつ。交換サインが出てるわ」
セラフィナの言葉に私は自分のおむつをみる。青い星が星座のように股下の部分に出ている。
え?出した感覚なんて全くなかった。
日本に来るんじゃなかったと、少しだけ思った。




