第159話「『森林の国』の魔法少女」
3日前。関西国際空港。
「お久しぶりです。ノーラ=コルホネンさん!」
入国ロビーを出たら、知っている顔の女子生徒がいた。確かマコト・ニシダだったはずだ。
魔法少女ワールドカップの新人戦2回戦の相手でダブルスコアで負けた相手だ。
「お久しぶり、マコト」
そう声をかける。
「今回、アテンド役になりました。1日ですがお願いします」
あの時と同じ服。多分、これがこの国での魔法少女の制服なのだろう。
「日本は初めてだから助かるわ。それにしても日本はあったかいわね」
ロビーの自動ドアを出て、着ていたダウンを脱ぎたくなった。
「『森林の国』よりもだいぶ南ですからね。ベイトリアン・デッキの先が駅です」
マコトは笑いながらも案内は忘れない。
この笑顔が曲者なのだと思う。彼女だって、魔法少女になって半年以内の、『新人戦』ではあるがワールドカップのチャンピオンなのだ。
1回戦は盾で相手を弾き出し、2回戦は火事場での救助勝負だった。それを彼女は盾をリフトのように使って難なく勝利した。同じ魔法でチャンピオンのサクラ=フジワラは空母をバケットのように切った。
日本には能力の応用が凄いと思う。
だから学びに来た。
電車切符を受け取って改札を抜ける。
さっき電車で移動するとは聞いた。
「それで『学校』はどこなの?」
「結構離れてます。長崎県沖にある『月島』って島です」
それがどこかもわからない。
それをマコトはわかったようだ。
「ここから電車で半日です」
それは電車が遅いのか、それとも距離が遠いのだろうか?わからない。
そんな不安をよそに電車は動き出した。
すぐに車窓が両方とも海になり、橋を通っているのがわかる。利用した空港が島だと納得できた。
「そういえば、お腹空きません?」
マコトがそう言った。
「日本食はこれから嫌という程食べる事になるだろう」
「ですよね。だから、ちょっと変わったものを食べましょう」
電車は新大阪駅に着いた。さっきの電車は京都まで行くらしい。
ちょっと行ってみたい気もする。
「ここです。ここの豚まんです」
マコトが店を指差して言った。
チャイニーズ料理のテイクアウトショップ?ファーストフードショップだろうか?こちらの希望も聞かず、マコトがお金を払って買ったものをこちらにも渡してきた。
「ありがとう」
礼を言って受け取る。大きなラビオリかラザニアに何か包んだような食べ物だった。
マコトが包み紙からハンバーガーのように頬張ったのを見て、私も真似る。
何これ!
美味しい!
オニオンと細切れの肉がスパイスと調味料によって味付けられ、外側の生地が具材の温度を保つ。そのおかげで食べ終えるまで温かい状態をキープでき、更には脂を吸って旨味も蓄える。
「これはチャイニーズ料理?」
「んーどうだろう?日本って各国の料理を自分たちの好き勝手に改造しちゃうんですよ。だから、元は別の国の料理でも、日本と本場で全く別物なんて事もあります」
なるほど。前のワールドカップで日本の応用力に驚いたが、それは国民性でもあるのだろう。盾を出せる魔法でリフトや空母の切断を思いつく国民なのだ。
「なんで、店の名前が数字なの?」
「『ここが1番』って意味らしいですよ」
ちょうど食べ終わる頃に電車が来た。新幹線という特急らしい。特筆すべきはその正確さだろうか?日本の電車は時計の歯車のように精密に動くものらしい。
♦︎♦︎♦︎
日が傾きかけた頃に、ようやく長崎駅についた。
「こっちです」
駅の構内を出て、トラムに今度は乗る。
「島じゃなかったの?」
私が聞いた。
「若い女の子がもうすぐ冬って時期に海の方に飛び込んだら騒ぎになるでしょう?」
なるほどと思った。
だからあえて山側にトラムで向かうのか。と。
トラムを終点まで乗って、更に山側に歩いたところに教会がある。カトリック教会のようだ。
「ここにホウキがあります。訓練が終わって、コンビニに行きたいとかいう時はここで降りて、あそこか、市電の停留所前のどちらかを使ってください」
そんな説明を受けて、ホウキで浮上していく。
「うわぁ!綺麗」
「ふふふ……でしょう?この時間に来て欲しくて、新幹線を『ひかり』にして、ゆっくり来たんです」
いたずらっぽく笑うマコトの先に広がる、地上の星。街灯や自動車のヘッドライトがまるで夜空のように広がる。空は日が落ちかけて、茜から紫色へとグラデーションしていく。
それを楽しみながら5キロ程進んだところで島が見えてきた。
鉄筋コンクリート製だろう四角い面白味のない建物とトレーラーハウスが並んでいる。
「あれが『月島』です」
マコトが静かに言った。




