第158話「道化師」
長崎県大村市、『月島』。
「ようこそ日本へ。あなた達を訓練する指導教官の高野舞よ。よろしく。そして、11人もいると目が届かない事もある。だから副教官がいます」
そう紹介されて、私はみんなの前に出る。
「藤原さくらです。よろしくお願いします」
「知っての通り、彼女は今年2月に行われた。魔法少女ワールドカップの優勝者よ。けれど今は魔法が使えない。空を飛ぶ事や身体強化すらね。だから任務ではなく育成で力になる事にしたそうよ」
私の簡単な自己紹介と舞先生の補足で、生徒達は背筋が伸びた。
私が一礼する。
留学生達の視線が刺さった。
疑問、困惑、同情ーー
その全てを受け入れる。
それが私の今日の仕事だから。
♦︎♦︎♦︎
2週間前、水戸市近郊。
「『チーム・スプリング』現着!」
あやめちゃんが『テンペスト』で報告する。
『本部了解。引退魔法少女の報告だと、老人ホーム内に数体のビーストが発生した模様。移動中に増えた可能性もある。十分注意されたし。以上』
「あやめ。南部の新館に逃げられるやつは逃げてるらしい。そっちの記憶操作を頼む。ビーストはこっちで引き受ける」
「ワカバちゃん、OKよ」
軽い業務連絡の裏で、テレパシーによって別の会話が行われている。
(『ここ、理想的な現場だな』)
(『そうね。出来るだけ強力な魔石をお願いね』)
(『ああ、ビーストの数を1体少なく報告して、魔石の数を誤魔化す。さくらのためだもんな!』)
『テンペスト』は常時本部と音声がつながっている。それでこんな回りくどい方法が取られた。
あやめちゃんとワカバちゃんによって難なくこの現場でのビースト発生はおさまった。
その夜。
(『さくらちゃん、この魔石を使って見て』)
あやめちゃんから5cm程のビー玉のようなものが差し出される。何度となく見てきた、魔石だった。
受け取った瞬間、いつも通りの感覚が戻る。身体強化が起こり、身体が軽くなる。
特に意識せずともフワリと宙に浮く。
(『つまり、「使えなくなった」訳じゃなく「使えないようにされた」。それが真相ね)
あやめちゃんがこちらを真顔で見る。
その時だった。寮の玄関扉が開き、誰かが入ってくる。
「……やっぱりね」
部屋に入るなり、ため息混じりに言ったのはゆりあ大臣だった。
「大臣。説明してもらっても?」
あやめちゃんが普段のおっとりさを引っ込めて質問する。
一瞬だけ遅れて理解する。
そうか、これが出来るのは限られる。ゆりあ大臣か学園の上層部だ。どちらにせよ、ゆりあ大臣につながる。
「辻あやめちゃんは6年目か……さすがに気づくわね。いいわ、話してあげる。だから、ワカバちゃん、影から狙うのはやめなさい」
こちらを向くゆりあ大臣の背中側、天井からふわりとワカバちゃんが着地する。
「知った以上、あなた達にも協力してもらう事になる。どうする?」
「私は知りたいです」
私の言葉にあやめちゃんもワカバちゃんもうなづく。
「今、さくらちゃんが装着している『テンペスト』には『魔石』が入っていないわ」
前にテンペストが壊れた時と一緒だ。これでは魔法は使えない。
「さくらちゃんはワールドカップでやり過ぎた。『欧州3大魔女』の魔法をコピーしてみせて、決勝戦すらあの広井夏樹を『誰にでも再現可能』な形で倒した。だから政府はあなたの一時的『凍結』を決めた」
そこに関しては納得はできないけれど、理解できる。核兵器だって、ミサイルだって『持っているけれど使わない』のは選択としてある。
「ところが今度は、あなたの『凍結』が原因でテロ未遂が起きた。しかも、この後も起こる可能性がある。だから『凍結解除』を政府は決定した」
「テロ未遂ってユウちゃんがやった事ですか?」
あやめちゃんが聞く。
私が眠っている間に何があったのだろう。
「端的に言えばそうよ。椎葉ユウが政府関係者の殺害未遂を起こして、東京タワーも倒そうとした。だから国外に追放処分となった」
知らなかった。
ユウ君がそこまで思いつめたなんて。
「勘違いしないで。ずっと国外って訳ではないわ。別のテロ事件の捜査で1年のレンタルよ。私を出し抜いてテロを起こせる才能を放っておく訳ないわ」
ホッとする。
「さて、知った以上、もう後戻りはできないわ。さくらちゃんには『道化師』になってもらう。世界中にあなたが『魔法を使えない』とアピールしてもらう事になる」
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現在。長崎県・月島。
寮代わりのトレーラーハウスがグラウンド脇に並ぶ。その奥に体育館みたいな建物がある。いや、この島が現役だった時は小・中学校の体育館だった建物で、教官用の宿舎や食堂に改修されている。
私の副教官としての役割は2つ。
文字通りに『副教官』として、ここにいる生徒を導く事。
そして、もう1つは『道化師』としてここにいる世界中の魔法少女を欺く事だ。




